「5000万円の授業料」「“合格率80%”の罠」…玉石混交「医学部専門予備校」の驚くべき実態

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 少子化で“曇り予報”が続く教育産業の中で、医学部受験に特化した「医学部専門予備校」に限ってはまだまだ市場がアツく、新規参入も相次いでいるのだという。「駿台」や「河合塾」など大手どころが君臨する中で、なぜ小規模な医学部専門予備校にこれだけのニーズがあるのだろうか。業界の裏側を知る関係者によれば、そこには知られざる“儲けのカラクリ”がある一方で、良い塾・悪い塾の差が大きく、玉石混交の体を成しているのだという――。

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 この少子化の時代でも、医学部人気は高止まり状態にある。文部科学省が公表しているデータによると、令和6年度の国公私立大学における「医学部医学科」の志願者数(大学別志願者数の合計)は、138,476人。コロナ禍の影響を受ける直前、令和元年度の137,610人と比べても、減るどころかむしろ微増しているのだ。

 医学部予備校の経営事情に通ずるコンサルタントの伊藤隆一氏によれば、

「全国で医学部を抱える大学は、防衛医科大学校も含めて82。医学部医学科としての募集人数は合計で1万に満たないにもかかわらず、毎年10万人以上の志願者がいる世界です。比較的入りやすいとされる地方の私立大でも、通常の入試に比べたら遥かに難易度が高いことがおわかりいただけるのではないでしょうか。それでも、職業自体の尊さや社会的地位に惹かれて、あるいは開業医の子どもたちが毎年一定数いることなどから、医学部人気はまだまだ過熱状態にあるといえます」

 こうした時代背景の中で、河合塾や駿台予備学校などの大手どころとは異なる、「医学部専門予備校」が急増していることをご存じだろうか。伊藤氏が続ける。

「ここ10年ほどで医学部専門予備校は急増し、ごく小規模なところも含めると、その数は今や全国で100近くあるともいわれています。難易度の高い医学部入試では予備校が必須で、かつ一人当たりの単価も高いため、この少子化の中、受験業界で唯一“稼げる業態”とされているんですね。大手予備校に勤務していた講師が独立して開校するなど新規参入が相次いだことで、聞きなれない予備校の名が世間にあふれるようになりました」

新規参入が激化

 医学部受験と縁遠い方からすれば、「大手予備校の医学部コースに通うのが普通ではないか」「わざわざ無名な予備校に行く人がいるのか」と疑問を抱くかもしれない。しかし、

「有名予備校では一クラスの人数が多い集団授業が一般的であるのに対して、医学部専門予備校の場合、少人数指導を強みにしたり、自習室などの環境面を充実させたりして、差別化を図っています。講師一人がカバーする人数が少ない分、授業料は高くなる傾向にありますが、個々に応じたきめ細かなサポートが期待できるため、医学部専門予備校を選択する方も多いのです」(同)

 一般的に医学部受験にかかる年間の予備校費用は、集団授業の大手どころで数十万円から100万円台、少人数指導の医学部予備校では200万円から700万円程度が相場といわれる。特に生徒一人あたりの単価が高い後者の場合は、「15~20人くらいの生徒さえ確保できれば十分経営は成り立つ」(伊藤氏)のだという。これだけ多くの医学部専門予備校が乱立するのも無理はないのである。

 とはいえ、

「数が増えるほど競争は激化するようになり、経営破綻に追い込まれる予備校も毎年数件出てきています。昨年には名古屋で展開していた『ビクセス予備校』が突如として閉校し、直前に授業料を払った生徒もいたことなどから、業界では話題になりました。ちなみに、今年1月の共通テスト直前に突如として閉鎖を発表した大学受験予備校『ニチガク』も、グループ内に『メディカル医進館』という医学部専門予備校を抱え、グループの稼ぎ頭になっていました」(同)

「合格率80%」の罠

 かくして競争が激化する中、「いかに一人あたりの単価を上げるか」に力点を置く予備校も少なくないと、伊藤氏は言う。

「医学部予備校にとって一番の“上客”は、子に病院を継がせたい開業医の家庭です。いくら学力が低くとも、『とにかくどこかの医学部には入れてくれ』と、使うお金に際限がないのです。1年間で5000万円という授業料を払った生徒も目にしたことがありますが、こういうご家庭で、双方納得しての契約なら問題はないのかもしれません。しかし、そうではない一般家庭から医学部を志す人だっているわけです。こうした方々が、無駄に多くの出費を強いられてしまうケースも散見されるので、その点は不健全と言わざるを得ませんよね」

 一口に「医学部予備校」といっても、その在り様は文字通り玉石混交。「どこでも一緒」という世界とは程遠く、料金や授業の質など、それぞれに大きな違いがあるのだ。

 では実際に医学部予備校への入塾を考えるなら、どう選ぶのが適切なのだろうか。一般的に重要な指標とされているのはやはり「合格実績」なのだが、

「本当の数字をそのまま出している予備校はむしろ少数。『合格率80%』などと謳っているところもありますが、そんな数字を毎年キープしているなんてにわかには信じがたいところがあります。とある予備校が出していた『合格者数』は、その予備校の在籍生徒数を超えていたこともありました」(同)

 入塾者目線からするとまず目につく重要な指標であるだけに、いかに大きく見せるかという競争状態に陥っているのだという――。

 有料版の記事【「合格実績の見極め方」「料金の基準」とは? 乱立する「医学部専門予備校」のカラクリと正しい選び方】では、そんな合格実績が水増しされる驚きのカラクリや、その見抜き方、また医学部受験を考えるご家庭へのヒントとして、医学部専門予備校の適切な選び方や注意点などについて、複数の関係者の証言をもとに詳述している。

デイリー新潮編集部

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