音楽プロデュース業でも話題の芸人「藤井隆」の美学とは 音楽としてのクオリティは本物

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揺るぎない誠実さ

 本人名義での楽曲だけでなく、セルフプロデュースによる作品やカバー曲などを通じて、彼は音楽においても一貫した世界観を構築していった。2014年には「SLENDERIE RECORD」という音楽レーベルを立ち上げて、藤井本人だけではなく、レイザーラモンRG、椿鬼奴、川島明(麒麟)、後藤輝基(フットボールアワー)、早見優などの作品をリリースしてきた。

 彼の親しい芸人仲間がかかわっているとはいえ、音楽としてのクオリティは本物だ。藤井は音楽プロデューサーとしての目線で、芸人たちの魅力的なところを見極めて、それをどういうふうに音楽として表現すれば良いかを考えている。ここでも藤井のスタンスは一貫している。「売れる音楽」ではなく「美しいと思う音楽」を作る。彼の意識は常に自分がやりたいことに向いていて、そこには揺るぎない誠実さがある。

 俳優としても、藤井隆は評価を高めている。映画やドラマなど数多くの作品に出演しており、たしかな評価を得ている。もともと吉本新喜劇の舞台役者としてキャリアを始めているだけあって、その演技力や表現力は一級品である。しかも、コメディアンでありながら、シリアスな演技をしてもさまになる品の良さがある。芸人としても俳優としても、彼は「何かになりきる」ということにかけてプロフェッショナルなのだ。

 藤井隆は、テレビという即物的なメディアと、音楽や演技という持続的な表現の狭間で、常に自らの立ち位置を調整し続けている。そして、どの場においても「自分だけ異なる次元にいる」という独特の存在感を放って、見る者を魅了している。どんな仕事でも変わることのない彼の内にある「美学」が、多くの人を惹きつけているのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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