異なるメーカーの製品は同じトラックで運べない…「下請け企業」が頭を抱える大手メーカーの“ナゾすぎる商慣習”

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ドイツの「ミッテルシュタント」

 製造業界において、日本とよく比較される国がある。ドイツだ。

 ドイツも日本と同様、第二次世界大戦での敗戦後、裾野の広い製造産業が急成長した国で、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWといった世界的自動車メーカーや、ミーレ、ボッシュ、シーメンスなどの大手家電メーカーなどが国の経済を支えている。

 ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー資源の供給がなくなったことで、ドイツも現在は経済が芳しくないところではあるものの、それでも国が比較的安定していると言われているのは、ドイツの「中小企業の強さ」にある。

 筆者が日本語教師をしていたころ、ドイツの某自動車メーカーの役員たちにプライベートレッスンをしていたことがあった。そのかたわらで、筆者が日本の自動車製造業の工場を経営していると知った役員たちとは、日本語のレッスンよりも、日本と自国の自動車産業における共通点や相違点を議論し合う時間になった。

 そこで彼らがしきりに発していた言葉が「Mittelstand(ミッテルシュタント)」だ。ミッテルシュタントはドイツ語で「中小企業」という意味を指す。

 ドイツのミッテルシュタントは、日本と違い、「系列」という意識が存在しないため、大手に媚びることも独自の技術を安売りすることもなく、彼らと対等なレベルで国内外に売り込んでいる。

 また、日本同様、家族経営が95%と非常に多いが、それぞれ外国指向が強く、大都市に集中せずに全国各地に点在していることも、産業や国の活性化に大いに貢献しているのだ。

 もう1つ違うのは、「労働環境」だ。

 戦後復興時、ドイツ人は時間を気にせず非常によく働いた。しかしその後は、労働環境の改善に努め、現在では最も少ない水準になっている。それでもドイツは2023年、日本の名目GDPを抜き、世界3位になった。

 繁忙期にしっかり働いた分、閑散期にはゆっくり休める「労働時間貯蓄型制度」もあるため、繁閑の影響で労働者を解雇したり雇用したりする必要もなく、安定した労働力が確保できるのだ。

 労働者の高齢化や人手不足、周辺諸国の製造力の上昇により、現在日本は「モノづくり大国」という立ち位置を失おうとしている。

 しかし、現場にはまだまだ世界と戦える技術力があるはずだ。

 そんな今後の日本の製造現場を守るには、大手が中小零細を縛る古い商慣習からの解放と、中小零細の売り込み力を上げる必要があると、つくづく思うのだ。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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