失言は政治家だけではない…プロ野球界で物議を醸した4つの“不適切発言” 「巨人のユニホームを着た審判をお立ち台に上げてやれ!」ほか

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「アイ・ドント・ライク・ノウミサン」

 ジョークめかして口にした言葉がチームメイト批判と受け止められ、チーム内での立場を悪くしたのが、阪神の助っ人、マット・マートンである。

 2012年6月9日のオリックス戦、ライトを守っていたマートンは、1点ビハインドの4回2死二塁のピンチで、斎藤俊雄の右前安打を処理した際に、前進守備だったにもかかわらず、緩慢な動作で三塁方向にそれる送球をしたため、二塁走者・大引啓次の生還を許したばかりでなく、打者走者の斎藤まで二進させてしまう。このプレーで試合の流れを失った阪神は1対6と完敗。先発・能見篤史は負け投手になった。

 試合後、報道陣から「本塁で刺す気があったのか?」と尋ねられたマートンは、「レット・ゼム・スコア」(敵に得点させてやったんだ)」とヤケクソ気味に答えた。さらに「ニルイ、ドウゾ、アイ・ドント・ライク・ノウミサン(能見さんが嫌いだから、二塁もプレゼントしてあげた)」と笑えないジョークを口にした。

 実は、マートンの問題発言は、試合後のミーティングで緩慢プレーを謝罪したにもかかわらず、報道陣からもしつこく追及されたことで内心ぶち切れ、つい口をついて出た言葉だった。

 直後、「自分のミス。ボールに行くのが遅かった。しっかり投げていればアウトだった」とフォローしたが、時すでに遅し。公の場でチームメイトを公然と「嫌い」と言ってしまったことで、能見との間でわだかまりのようなものが芽生えてしまう。

 だが、真面目で心優しい助っ人は、何とか仲直りのきっかけを掴もうと、以来、ずっとその機会を待っていた。

 そして、翌13年4月9日の巨人戦で自ら決勝タイムリーを放ち、完封勝利の能見とともにお立ち台に上がると、「ノウミサン、アイシテルー!」と言いながら、笑顔で抱きついた。
 
 能見も「イヤ、ちょっと照れくさいですけど……」とはにかみながらも、「必ず打ってくれると思っていた。ナイスバッティング!」とエールを贈り返し、スタンドの大喝采を受けた。

 たとえ不適切発言であっても、本人の努力と気配りで状況を改善させることが可能であることを教えてくれたという意味でも、好感の持てるエピソードである。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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