ロスで移民政策への抗議デモが激化も…トランプ政権が「ハーバード大学」を弾圧しても支持を訴えるデモが広がらないのはナゼか
謎を解く鍵は学部生の数
その上で古谷氏は「しかしながらアメリカでハーバードを応援するデモが起きていないことも充分に理解できます」と言う。
「日本で一部の識者は『トランプ大統領が東部のエリート層を攻撃すると、快哉を叫ぶ国民は少なくない。だからハーバードは孤立している』と解説しています。しかしながら、これは率直に言って的外れでしょう。単純な話で、ポイントはハーバードの学生数、それも学部生の人数です。ハーバードは大学院生だと1万人とか1万5000人という数になりますが、学部生だけだと6000人とか7000人しかいないのです。東京大学は学部生だけで1万4000人もいます。早稲田大学ですと約3万9000人です。アメリカの人口が日本の約3倍、大学進学率が約1・4倍であることを考えると、いかにハーバードが小規模な大学かがわかります。学部生の数が少なければ、その分だけ共闘しようという“仲間”の数も自動的に減るのは当然のことではないでしょうか」
ハーバードの所在地も重要だ。マサチューセッツ州の州都ボストンの北に位置するケンブリッジという小さな街にある。ケンブリッジはハーバードとマサチューセッツ工科大学(MIT)のキャンパスがある学園都市として知られているが、人口はわずか11万人強しかいない。
「ハーバードは世界屈指の名門大学です。エリートの卵である学部生を絞り込んで少数精鋭とし、小さな郊外都市で勉強漬けの日々を過ごさせてきました。本来なら正しいはずの教育方針が、今回だけは裏目に出たと言えるでしょう。全米50州にはそれぞれ名門の州立大学があり、そこにはハーバードとトランプ大統領の対立を憂慮する学部生もいるはずです。しかしながら彼らとハーバードの距離は物理的にも精神的にも非常に遠いのです。全米の大学生が『ハーバードを守るために立ち上がろう!』と一致団結しないのは、アメリカの大学は、名門以外の州立大学の卒業生こそが圧倒的に多いからです。そのため大卒者同士の連帯が広がらないのは、ある意味仕方のないことではないでしょうか」(同・古谷氏)
ハーバードだけを狙い撃ち
日本の場合、首都圏や関西圏に大学が集中している。高校の卒業生、バイト先やサークルといった人間関係を介し、横のつながりが生まれやすい環境だと言える。
「ハーバードにおける学部生の人数や、所在地を日本に置き換えると、地方の国立大学が当てはまると思います。国立大学の学部生数を見ると、山形大学は約7300人、弘前大学は約5900人です。仮に日本の石破政権が山形大や弘前大に苛烈な弾圧を加えたとしても、首都圏や関西圏の学生はとりあえず様子見を決めるのではないでしょうか。いきなり山形県や青森県に飛び、連帯を示す大学生は少数派でしょう。アメリカも同じなのです」(同・古谷氏)
日本の報道に接していると、トランプ政権はアメリカから全ての留学生を追い出しているように見えてしまう。だが古谷氏は、それは間違いだと警鐘を鳴らす。
「アメリカへの留学情報をインターネットでチェックしましたが、州立大学やコミュニティカレッジでは普通に留学生を受け入れています。とりわけアメリカで大きな割合を占めるコミュニティカレッジは原則入試が無く、教育期間も2年で費用が安く、日本人学生の人気が高まっています。コミュニティカレッジは日本では短大に例えられますが、4年制大学並みに留学生への門戸が開かれています。考えてみれば当たり前で、トランプ大統領はアメリカ東部の名門大学、その中でも特にハーバードを狙い撃ちにしているのです。他の大学はそうではないので、トランプの圧力は当然薄れてしまうでしょう。もしトランプ政権が全米の、コミュニティカレッジを含めたありとあらゆる大学から留学生を追い出し、新規の留学も一切認めない方針を示せば、全米の大学生がデモを行う可能性はあると思います」(同・古谷氏)
ロイター(日本語電子版)は6月11日、「米国務長官がハーバード大の調査勧告、制裁違反の可能性と米紙」との記事を配信した。
ルビオ国務長官はハーバードが中国での医療保険会合に協力したことを問題視。財務省に調査開始を勧告する文書にサインした──とニューヨーク・タイムズが報じたことを紹介した記事だ。ハーバードの苦難はまだまだ続きそうだ。
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