本気で嫌がるが「いじめ」に見えない…成功する「リアクション芸人」が持つ超高度なテクニック

エンタメ

  • ブックマーク

かわいげのあるキャラ

 次に、かわいげのあるキャラクターを持っているということだ。リアクション芸とは、人が嫌がっている姿を見せて笑いを取るというものであり、そこには「いじめ」に近い要素が含まれている。単なるいじめのように見えると、途端に笑えなくなってしまう。

 この事態を避けるためには、リアクション芸人がもたらす「面白さ」の総量が、そこにある「いじめ的な気まずさ」の総量を常に上回っていなければいけない。ここで重要になるのが本人のキャラクターである。誰もが優しく見守りたくなるようなかわいげのある人間であれば、気まずい空気になることがなく、見る側も安心して笑うことができる。「痛みを伴う笑い」に対する批判が高まっている今の時代には、この要素は今まで以上に重要性を増している。

 さらに、「二発目のリアクションが面白い」というのも重要だ。たとえば、連続で何かが現れて驚かされるというドッキリを仕掛けられた場合、最初はただ純粋に自然なリアクションをすることができるかもしれないが、驚いた直後に多くの芸人は「これはドッキリだな」と気付くはずだ。すると、そこで問題になるのが二回目以降のリアクションである。

 二回目からは、ある程度はそれがドッキリであるという可能性を見越した上で良いリアクションをしなければいけない。ここにはある程度の演技力が求められる。この部分でちょうどよい塩梅のリアクションができるかどうかというのもポイントである。

 最後に挙げたいのは「運」である。「水曜日のダウンタウン」の中で尾形も語っていたことだが、リアクション芸人には「運」が必要だ。ドッキリを仕掛けられた場合、それが面白くなるかどうかは運の要素も強い。たまたま仕掛けが失敗して上手くいかないことがあるかもしれないし、たまたまその瞬間に考えごとをしていて、ドッキリの仕掛けを見逃すこともあるかもしれない。

 ただ、そういうものも含めて、すべては運である。優秀なリアクション芸人はほぼ例外なく運にも恵まれている。必死でリアクションをする中で、計算を超えた奇跡を起こすことがよくある。人間にコントロールできる要素ではないとはいえ、やはり運は重要なのだ。

 出川哲朗、ダチョウ倶楽部など、レジェンドクラスのリアクション芸人は、これらの要素をすべて満たしているからこそ、あれだけの地位を築くことができた。今後のお笑い界でもリアクション芸人の火が絶えないことを願っている。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。