「いくら働かせようと労基署に駆け込まれる心配はない」 “24時間戦える”AIの圧倒的な強さ(古市憲寿)
最近「日本大学藝術学部客員教授」という肩書がある。先日も江古田キャンパスに行ってきた。昔から日藝は多くのクリエーターが輩出することで知られている。三谷幸喜さん、青山剛昌さん、中園ミホさんも出身者。この数年では歌手のVaundyやYOASOBIのikuraちゃんも日藝。学部長の川上央さんは音のデザインの専門家。ただオープンキャンパスでは「AIスパイスカレー」なるものを提供していたり、よく分からない。このよく分からないごった煮の雰囲気が日藝なのかもしれない。
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講義での一番の話題はAIだった。社会を劇的に変えつつあるAIだが、芸術に与えるインパクトは非常に大きい。人間が作ったら何週間、何カ月もかかるような絵や音楽、脚本までを一瞬で作ってしまう。
実際、クリエイティブの現場ではAIが当たり前に使われている。友人から脚本のアドバイスを求められ、きちんと読む時間がなかったのでAIに問題点を指摘してもらい、それをそのまま送ったら、えらく納得していた。そういえば日藝の教授からもあるミュージシャンの名前を聞いた。音階などから考えて作曲にAIを使っているとしか考えられない、と。
少し違うようだが、あるカラオケマニアから聞いた話。サザンオールスターズしばりのカラオケは何時間でも続けられるが、ある最近人気のミュージシャンは2時間で「もういいや」となってしまうのだという。それがたまたま日藝教授が出したのと同じ名前だった。AIの作る曲は情報量が多過ぎて、意外と飽きが早いのかもしれない。
ちなみに僕は少し前まですごい数のJ-POPを聞いていた。旧曲はもちろん、暇さえあればサブスクで新曲プレイリストを確認して新しい歌手を探していた。それがこの1年は、Sunoという音楽アプリで自作した曲ばかりを聞いている。自作といっても大した話ではない。簡単なテーマを入力したり、動画をアップロードするだけで、勝手に曲が出来上がる。スマホのアプリ版もあるが、パソコンの方では微調整が利く。
Sunoを使い始めた頃は自分で歌詞を書き、曲だけSunoに任せていたが、最近はChatGPTのo3というモードを活用している。「○○風の歌詞とプロンプトを作って」(○○は実在の歌手名)と指示すれば、なかなかレベルの高いものが出てくるようになった。それをSunoに貼り付ければ、30秒ほどで新曲が完成。
現状は「一流ミュージシャン以上」とまではいかない。だが人間にダメ出しをすると心がすり減るが、AIなら何十、何百とリテイクを出しても平気。この点がAIの強さだと思う。
何でもかんでもパワハラと言われかねない時代である。だがAIがSNSに告発したり、労基署に駆け込む心配はない。いくら働かせようと何の問題もない。会社や上司としては、これほど安心な部下はいないだろう。24時間戦える昭和の企業戦士のような存在がAIなのである。






