またも「朝令暮改」のトランプ政権、抗議デモの大混乱をヨソに“一部で不法移民の摘発中止”…MAGA主義者の心が離れれば窮地に
非婚・高齢出産・格下婚
米国の出産状況は日本に似てきた感がある。米疾病予防管理センター(CDC)の最新報告によれば、昨年最も出産数が増えたのは、40代前半と30代後半の女性だった。米国でも高齢出産が当たり前になったのだ。
非婚化の波が広がっていることも足かせだ。ピュー・リサーチセンターの調査によれば、米国の昨年の単身世帯数は史上最多の3850万に達し、全米世帯の29%を占めている。
最近は、女性が自分より学歴が低い男性と結婚する、いわゆる「格下婚」の割合も増えている(5月5日付クーリエ・ジャポン)が、トランプ政権下で広がるマッチョイズム(男性優位主義)がこの傾向に水を差してしまうかもしれない。
少子化が進めば進むほど、不法移民対策の実行は困難となる。
このことに危機感を抱いたからだろうか、トランプ氏は9日、出産奨励策を発表した。米国で生まれた新生児のために政府が投資口座を開設し、1000ドル(約14万5000円)の初期資金を拠出するというものだ。
米国で広がる将来への不安
ホワイトハウスは、この「トランプ貯蓄口座」により出生数は増加すると喧伝しているが、専門家は「税制上の優遇措置は少なく、出生数の増加に寄与するとは思えない」と冷ややかだ(6月10日付Forbes JAPAN)。
出産に影響を及ぼすとされる住宅事情も芳しくない。住宅ローン金利の上昇などが災いして、4月の住宅販売は同月として16年ぶりの低水準となっている。
米国で将来への不安が広がっていることも気がかりだ。専門家は「人々は将来に不安を抱いていると、子供を持つことを先延ばしする傾向がある」と指摘する。
残念ながら、米国社会はさらに混乱する可能性が高そうだ。
歴史動態学者のピーター・ターチン氏は「米国は今後10年間、政治的に不安定さを増す時期に突入するだろう」と警告を発している(6月10日付ニューズウイーク日本版)。
1970年代以来、約50年ぶりの暴力の嵐?
ターチン氏の予測は「構造的人口動態理論」に基づいている。歴史的に繰り返している“政治的不安定性のサイクル”について、経済的不平等や国家の能力などの要因がいかに作用しているのかをモデル化した理論だ。
ここでターチン氏が注目しているのは、満足な職に就けないエリートたちの社会に対する不満の高まりだ。彼らのルサンチマンが米国社会を崩壊させつつあり、1970年代以来、約50年ぶりの暴力の嵐が吹き荒れるのではないかと危惧している。
挫折したエリートたちにとって、権威主義的な政権運営を続けるトランプ氏ほど許せない存在はないだろう。
また、出生数を増加させたいトランプ氏が米国社会の混乱を助長し、むしろ少子化が進むことになれば、不法移民対策をさらに緩める必要が出てくる。
そうなれば、MAGA主義者からの支持が揺らぐ可能性は高く、トランプ氏の政権基盤に深刻な亀裂が入ってしまうのではないだろうか。
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