「小さい頃から性に興味がない」50歳夫 レスすぎる夫婦生活に妻が「外注」を宣言するまで
もともと「恋」に疎かった
いつの間にか美緒さんは、浩毅さんにとって大事な人になっていた。だが彼は関係を積極的に進めようとはしなかった。彼は女性とつきあう経験をしたことがなかったし、自らの性的欲求もあまり感じたことがなかったからだ。
「ふたりでよく会うようになっても、どちらからもつきあおうという言葉は出なかった。彼女は深く傷ついていたから、すぐに誰かとつきあうような気分じゃなかったんでしょう。僕もそれはわかっていた。彼女と会うのは楽しかったけど、このままの関係でいいとも思ってた。恋というものをあまり重視していませんでしたから」
一緒にいれば楽しい。だが長い時間、深い関係だと負担になる。そこが一致していた。彼女は前の恋の痛手から、そして彼はもともと「恋」に疎かったから。このまま友だちとして関係が固まるかと思われたころ、美緒さんに海外駐在の話が出た。
「名誉なことですよね、社員の中から選ばれるなんて。彼女も興奮していました。祝杯をあげたんですが、彼女がふと『私たちってどうなるんだろう』とつぶやいたんです。その言葉に押されるように『婚約しよう。美緒が帰ってきて気持ちがかわらなかったら結婚する。婚約に縛られるのが嫌ならしなくてもいいけど』と言ったら、『婚約しよ』と彼女も言った。離ればなれになって気持ちも離れていくのが怖かった」
キスもせずに結婚
彼女が帰国したのが29歳のとき。そして30歳になる手前で結婚したが、その時点までふたりはセックスはおろかキスさえしたことがなかった。手を繋いで歩いたことはあるが、
「濃厚接触はふたりともしようとしなかった」と彼は言う。
「どうしてか僕は性には本当に興味がなかった。小さいころからですね。3歳違いの兄がいるんですが、10代のころ兄は友だちと回し読みしたエロ雑誌をよく僕のベッド下に放り込んでいたんです。母がそれを見つけて、『まったくもう』と文句を言うと、『読んだらオレに回せ』と父が言って笑い合う。そんなことがよくありました。ただ、なんだか僕は笑えなかった。ヌードをさらしている写真の女性の気持ちもわからなかったし、それを見て喜ぶ男たちの気持ちも理解できない。10代から大学時代にかけてはわかったような顔をして、友だち同士のエロ話にもつきあっていたけど、実際には興味がなかったんですよね」
それでも結婚に踏み切ったのは、美緒さんという存在を失いたくなかったから。だが新婚旅行でも何もしようとしなかった浩毅さんに、さすがの美緒さんも我慢できなかったのだろう、襲いかかってきたという。
「もういいでしょ、結婚したんだからって。怖かったですが、そこで怯むわけにもいかず、がんばりました。できたときはホッとした。結局、いろいろ考えすぎて何もできなかったんだということがわかったから」
そのただ1度で美緒さんは妊娠、娘が産まれた。妻が妊娠してから、彼にとっては妻の体が神秘そのものとなり、「自分などが手を出してはいけない」と思うようになった。「聖母」のイメージが抜けなかったのだという。
[2/3ページ]