30余人が死傷した昭和の「電車爆破事件」…25歳の犯人が「横須賀線」に時限爆弾を置いたあまりにも身勝手な動機
動機は何か?
一方で、別の捜査員が「Wには事件前年に同棲していた女性(A子)がいる」との情報を得、すぐにA子へ接触した。彼女の供述によると、「同棲していたころ、部屋にゼンマイ式のタイムスイッチがあり、押し入れの中には壊れたテープレコーダーがあった」という。鑑識課員が復元したタイムスイッチの写真を見せると、A子は「これと同じものを見た」と供述した。
さらにA子はその時点で、かつてWと同じ会社に勤めていた同僚男性と交際しており、そのことをWも知っていた。何度かWから復縁を迫られることもあったが、気持ちは完全に切れていた。
〈自供によれば犯行の動機は、都内で幼なじみの女性と同棲したが、その女性が被疑者の友人と恋仲となり結婚の望みをたたれたため、うっ憤を晴らすためにその女性が上京するたびに利用していた横須賀線の電車内に、無煙火薬を詰めた時限爆破装置をセットしたものであった〉(同・資料より)
犯人逮捕を報じる当時のマスコミ報道では、一連の爆破事件への関与や、Wの自宅への捜索から「草加次郎事件」に関する記事の切り抜きが押収されたことから、同事件への関与も疑われていることなどを報じている。また、本件犯行直後に「犯行声明」などが出ていなかったことから、組織的な団体が関与している可能性は低いと見られていたが、巧妙な爆薬を作っている事から、人的・組織的背景がないかどうかも徹底的に捜査された。
最終的に、同棲相手を失ったことで自暴自棄になったWの単独犯であることが確定した。
事件当日、昭和43年6月16日は早朝から雨が降っていた。雨となると、A子は横須賀線に乗って都内に出て、かつての同僚の家にいくかもしれない。電車にいたずらをすれば、A子はオレの仕業と分かり、同僚の家に行くのを止めるかもしれない……。
タイムスイッチの時間を「午後3時30分」に合わせたことに大きな意味はなかったという。午後1時30分ごろ、東京駅に着いた。13番ホームに停車していた同45分発横須賀行きの電車内の網棚に爆弾を置いた。売店に行くふりをして電車を降り、そのまま府中競馬場に行った。
「自分のやるべきことはやった。時限爆弾は必ず爆発するだろうから、世間や警察はどのように騒ぐだろう。これで俺のやりたいことは終わったと、胸がスッとして思わずタバコに火をつけた」(近藤昭二著『捜査一課 謎の殺人事件簿』二見文庫より)
逮捕後のWの供述である。しかし、夜のNHKニュースで事件を見た時、恐怖のあまり、全身が震えた。「あれは自分がやったんじゃない。誰か他の人物が仕掛けたものだ」と思い込むようにしていたという。
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