超レアな「レフト・長嶋」などなど…「長嶋茂雄」現役時代の知られざる“珍事” 「長嶋の代打」に送られた打者は緊張度MAX

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記者に指摘され気が付いた「1イニング2アウト」

 長嶋が1イニングで2打席凡退の珍記録をつくったのが、1972年8月9日の大洋戦である。

 大洋の先発・平松政次を打ちあぐみ、1対4と敗色濃厚の巨人は9回、先頭の4番・長嶋が右邪飛に倒れたあと、代打・広野功の左前安打でビッグイニングの扉をこじ開ける。森昌彦、土井正三も連打で続き、1死満塁で、槌田誠の左前2点タイムリーでたちまち2点差。2死後、高田繁の右前安打で再び満塁とすると、柴田勲が左越えに走者一掃の逆転3点タイムリー二塁打。王貞治も四球を選び、打者一巡して長嶋にこの回の2打席目が回ってきた。

 だが、この日無安打の長嶋は、3番手・鵜沢達雄の外角球に手を出して右飛に倒れ、翌日の日刊スポーツに「天下の長嶋が“進行係”になってしまった」と報じられる羽目に。

 8月2日の阪神戦以来、15打席連続無安打とスランプ続きの長嶋は「何だって?1イニング2アウト?エッ、そんなバカな」と取材記者に指摘されるまで気づかず、「あっ、そういえば、そうだな。最初がライトのファウルフライ、次がライトフライだものな。ウーン、こんなこと、オレの記憶にないな。おそらく生まれて初めてのことかもしれない。ヘエー、おかしなことになったもんだ」と目を白黒させた。

 だが、「打撃の調子は上向き」と自信満々で、「もう平気。悪いところは直った。今日のフリーバッティングを見てくれたか?良かったろう」と胸を張った。

 さらに、末次民生から「チョーさん、最後のヤツ、風がなければホームランでしたね」と声をかけられると、「ホウ、よくわかっているな。確かに真芯に当たったが、風に戻された。あれが出るようになれば、しめたものさ」と笑顔で締めくくった。

 その言葉どおり、翌10日の大洋戦では、先発・竹内広明から1週間ぶりとなる22号ソロを放ち、勝利の立役者となった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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