フジ、後手を踏んだ自局アナのオンラインカジノ 止まらない不祥事…これで本当にコンプラは改善されるのか
株主総会の行方
一方、FMHの取締役会は7%強の同社株を持つ米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が提案した取締役候補12人について、株総で反対することを決めた。自分たちが提案した11人の取締役候補を推す。株総での両者の衝突は避けられそうにない。
機関投資家を顧客とし、株総での議決権行使に関する助言を行っている米国の「インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)」は6月10日、FMH側の取締役候補の推奨を決めた。FMHは一歩リードした。
しかし、実際の株総がどうなるかは分からない。プロキシーファイト(委任状闘争)もあり得る。これは株総での議案の採決をめぐり、経営陣と反対派が、ほかの株主の委任状を集めて争うことである。
そのうえフジは株総前に痛恨のミスを犯した。山本賢太アナ(27)が過去にオンラインカジノを利用していた件だ。6月11日にフジが発表した。
テレビ局の社員の逮捕や違法行為、反道徳行為は過去に数え切れないほどある。それ自体が会社の屋台骨を揺るがすことは少ない。しかし、対処法が問われる。
たとえばテレビ朝日の若手社員が2021年、住居侵入などの疑いで逮捕されると、同局広報局は警視庁より先に発表した。元報道局長の早河洋会長(81)が率いるテレ朝は不祥事を自分たちで公表する。普段は他人の悪事を暴いているのだから当然である。
一方で山本アナは5月中旬から忽然と画面から消えた。フジがオンラインカジノに関わっていたことを発表するまで、説明は一切なかった。その発表も一部メディアが、山本氏が消えた不自然さを報じたあとだった。後手を踏んだのである。
FMHは自分たちの取締役候補を推す理由の1つとして、コンプライアンスの強化を挙げている。もっとも、現行体制は山本アナの違法行為を伏せてしまった。現行体制が選んだ取締役候補は体質を一新できるのだろうか。
取締役候補以外でも体質一新に向けて期待される人がいる。フジの新任の広報局長・渡邉奈都子氏(56)である。
渡邉氏は報道局長からの転身なので左遷と捉える向きもあったが、まるで違う。それは昭和期の話だ。日本テレビでも昨年、女性の敏腕社会部長が広報部長に転じた。
前出の早河氏も報道局長から広報局長を経てトップに登り詰めた。各局とも広報幹部はエリートコースなのだ。商社、銀行などと同じ。ちょっとした対応ミスが途方もない損失につながるから、有能でないと任せられない。
それより広報局長がエリートだという証しは、社内の全情報を握ること。新番組情報はもちろん、不祥事、財務、幹部同士の人間関係まで、広報局長が知らない情報はほぼない。会社がよほど信用する人物でないと配置できない。
ただし広報局長が不祥事の隠蔽など不誠実な対応をすると、局全体のイメージが失墜する。責任は途方もなく重い。
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