令和ロマン・くるまだけではないベストセラーランキングに「芸人本」が3冊 単なるタレント本ではない深い内容

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芸人の語る言葉

 5月30日、日本出版販売(日販)が発表した「2025年上半期ベストセラー」において、芸人の書いた書籍が3冊もランクインするという事態が起きた。

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「単行本ノンフィクション他」部門で令和ロマン・高比良くるまの『漫才過剰考察』(辰巳出版)が3位に、霜降り明星・せいやの『人生を変えたコント』(ワニブックス)が4位に入った。さらに、「新書ノンフィクション」部門でNON STYLE・石田明の『答え合わせ』(マガジンハウス)が7位に入った。

 この3冊の内容は単なるタレント本にとどまらず、深い自己分析や芸の内省が込められている。今なぜ芸人の本がこれほどまでに読まれているのか。それぞれの作品の内容を掘り下げながら、その理由を探ってみたい。

 まず、映画化・ドラマ化などの可能性も見えている話題作の『人生を変えたコント』について。これは、霜降り明星・せいやが少年時代に壮絶ないじめを経験して、それを笑いの力によって乗り越えていく過程を描いた半自伝的小説である。単なる過去の実体験をまとめたエッセイでもなければ、説教臭い自己啓発書でもない。ここには、悲惨な現実の中で人はどのように自己を物語化し、人生を切り開いていけるのか、という文学的で哲学的な問いが込められている。

 せいやは、自分がいじめられていた当時からすでに「これはいつか本になる」と感じていたという。そういう視点を持っていたことが、せいやという人間の強さである。つまり、自らを「物語の主人公」として認識し、絶望の中でも「将来の自分が語るべき物語」として目の前の状況をとらえていたのである。これはなかなかできることではない。

 せいやはこのいじめ体験のことをテレビなどでは何度も断片的に語ってきた。ただ、それがこうして一冊の本としてまとめられることで、その物語に構造が与えられ、読者に対して「物語としての人生」の可能性を開示するものとなった。いじめなどの苦境に陥っている人を優しく励まし、勇気づけるような内容になっている。

 令和ロマン・高比良くるまの『漫才過剰考察』は、前人未到の「M-1グランプリ」二連覇を果たした彼が、二度目の優勝をする前に書かれたものだ。彼の連載コラムの内容をベースにして、書き下ろしを加えて編まれた、漫才の理論書とも呼ぶべき一冊である。自らの優勝経験やネタ作りの技術をもとに、漫才という芸能についてさまざまな角度から掘り下げて、知的に語り尽くす姿勢は、まるで研究者のようだ。

 くるまの視点の特徴は、分析の鋭さと視野の広さにある。ネタの構成、笑いの間、コンビとしての役割分担といった漫才そのものに関する部分だけではなく、審査の傾向、会場や客層の違いといった、外的な要素にまで目を向けて、漫才を一種の「技術と運用の体系」として捉えている。こうした視点は、観客として「なんとなく面白い」と感じていた漫才の印象を、理屈によって輪郭づけてくれる。

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