トランプ政権から「共産主義者」と見切られた李在明、いつまで猫を被るのか――鈴置高史氏が読む

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電話協議は就任60時間後

 恒例の米韓電話協議も韓国時間6日夜に行われましたが、正式就任の約60時間後でした。これまで韓国の大統領は当選当日に米国の大統領と電話するのが普通でしたから、ホワイトハウスの冷遇ぶりは明らかでした。

 ホワイトハウスの報道官室は「シカト」を続けました。米韓電話協議を実施しても、何も発表しませんでした。トランプ第2期政権は電話協議をいちいち発表しないので、これは必ずしも異例とは言えません。

 ただ、内容に関し問い合わせた韓国メディアに対し「協議した事実」は確認しても、それ以上は明かしませんでした。韓国の通信社NEWSISの「韓米、初のトップの通話にも温度差…トランプ・ホワイトハウスの発表は未だに」(6月7日、韓国語)が報道官室の「異様な冷淡さ」を報じています。

 李在明大統領の初となるトランプ大統領との電話協議は、韓国側の発表だけに基づいて報じるほかなくなりました。韓国の各メディアは「李在明大統領は米国に招待され」「お互いが経験した暗殺のリスクに関し話し合い」「同盟強化のためにゴルフを共にすることで合意した」と極めて楽観的なトーンで報道したのです。

 韓国政府は首脳会談で自国側が言っただけで相手も同意したと発表することがしばしば。とても信用できないのですが。

反米主義者の巣窟

――李在明政権は共産主義者の集まりなのでしょうか?

鈴置:共産主義者かはともかく、反米主義者で固めていることは間違いありません。米国人は自分が気に食わない相手は皆「共産主義者」呼ばわりするので、語法的には誤りでないのでしょうが。

 図表「李在明が指名した政府要人の経歴」をご覧ください。ツートップの首相と秘書室長の2人がいずれも学生運動出身。ことに首相に指名された金民錫(キム・ミンソク)氏は1985年の米文化院襲撃籠城事件に関与、収監されています。

 1970年代以降、韓国の学生運動家の必読書とされたのが『転換時代の論理』や『解放前後史の認識』という本です。いずれも「世界支配を目論む米国が朝鮮人民を仲たがいさせ、その対立につけ込んで軍隊を韓国に駐屯させている」との世界観で貫かれています。

 韓国のある保守の知識人は『転換時代の論理』を「岩波書店の月刊誌『世界』を切り貼りしたような本」と説明しました。左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)の両大統領も愛読者で、ことに文在寅氏は2017年になっても「国民が読むべき本」と勧めていました。

 当然、学生運動の中心人物だった新政権の首相と秘書室長はこれらの信奉者だったでしょう。李在明大統領が読んでいると明かしたことはありませんが「大韓民国の建国は親日勢力と米占領軍の合作」などの発言から『解放前後史の認識』史観の持ち主と見なされています。

 朝鮮日報の「李在明、4年前に『李承晩は親日愛国』…米国のTHAAD配備は李朝末の日本に似る」(2021年7月5日、韓国語版)がそう指摘しています。

 昨年12月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を弾劾した時も、李在明氏が代表だった「共に民主党」は弾劾理由に対日融和政策を挙げました。

 その目的は反日だけではありません。日米韓の3国軍事協力を非難する狙いでした。米外交界からは「李在明は米国の敵と手を結ぶつもりだ」と強く警戒されました。

 これに関しては「トランプ就任でどうなる韓国…『米中どちらの味方か』の岐路に 米有力議員は韓国左派を“内通者”と非難」で詳述しました。

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