「BTS」はなぜ自分たちで曲を書き続けるのか? デビュー曲の歌詞を29回書き直した、世界的グループが貫く原点
今月中に7人の完全体に!
デビュー12周年となる今年、BTSへの注目がこれまで以上に高まっている。今月末までに、メンバー5人が約1年半の兵役義務を終え、グループは7人の「完全体」として再始動するとみられているからだ。
小さな芸能事務所の練習生としてスタートし、世界的グループに成長。そのサクセスストーリーはこれまで多く語られてきた。
ビジネス面での戦略とは別に、彼らの強さの秘密として挙げられるのは、メンバー自らが曲を書いているということかもしれない。
そうした創作作業はデビュー前から始まっていた。BTS初のオフィシャル・ブック『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー 10-YEAR RECORD OF BTS』には、デビューアルバムのタイトル曲制作についてこう明かされている。
「作業室ではRM、SUGA、J-HOPEたちが〈No More Deam〉の歌詞を書きながら魂の限界に挑戦していた。さらに、RMは、この曲のラップの歌詞を何度も書き直し、その数は、なんと29パターンにも及んだ」
リーダーのRMは実際にこのように語っている。
「公園に行って、叫んだこともあります。ラップがずっと思い浮かばないので、すごくもどかしくて」
作曲、作詞を手がけるRM、SUGA、J-HOPEは、他のメンバーにも意見も求めていたという。同書でJIMINはこう回想している。
「年上のメンバーたちが歌詞を書くとき、僕にも意見を求めてくれました。『こういう内容はどう思う?』『君の周りの子たちはどう?』『学校の友だちのなかで、夢を追っている子はいない?』って。そういうことが、すごくありがたかったですね」
これはBTSが当時から貫き続けてきた姿勢のようだ。
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自作の曲で何を歌ってきたか
創作の苦しみに耐えながら、BTSはどんな曲を作り、何を歌ってきたのか。
意外なことにこれまで彼らの歌詞には、公式の邦訳が存在しない曲が多い。
『BTSレジェンド10曲の歌詞で学ぶ韓国語』(Cake×SHINCHOSHA Re-editing Project、予約発売中)には、ファンに最も愛されている10曲の公式日本語訳が初めて掲載される。この本の監修を務め、『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー』の監訳もした翻訳家の桑畑優香さんはこう話す。
「BTSの曲は韓国語がベースなので、歌の意味を知るには翻訳が要ります。BTSは2014年に日本でもデビュー、原曲と同じメロディーに、日本の作詞家が翻訳をもとに作詞した歌詞を乗せて歌う『Japanese ver.』でも日本人ファンを楽しませてきました。
そのため日本のファンは大人気曲〈Boy With Luv (Feat. Halsey)〉〈ON〉〈Spring Day〉などを、韓国語バージョンと日本語バージョンの両方で聞くことができたわけなのです」
日本語と韓国語は語順が似ている上に、感性も近いために「翻訳」しやすい。もっとも、この日本語バージョンにも難が無かったわけではない、という。リズムやテンポを考慮して曲に日本語詞を乗せる『Japanese ver.』では、元の歌詞にあった要素が失われることもあるからだ。
「たとえば非常に人気が高いことで知られる〈Boy With Luv (Feat. Halsey)〉は、「すべての」を意味する韓国語「モドゥン」で始まりますが、『Japanese ver.』の歌詞にはこの要素がありません。ここでは気になる相手を思う気持ちがこの言葉で一段と深く表現されているのですが、リズムに乗せるために落とさざるを得なかったのでしょう。
今回の公式日本語訳は韓国語歌詞を一語一句そのまま対訳しており、英語で書かれた歌詞もすべて日本語で読むことができます。BTSのレーベル提供の日本語訳なので、ファンの皆さんにとっても信頼できるものとなっています」(桑畑さん)
桑畑さんは、「ラップパート」の歌詞を知ることでファンの皆さんはますます引きつけられるに違いないという。
「公式日本語訳を読んで特に興味深かったのは、作詞作曲を手がけてきたRMさん、SUGAさん、J-HOPEさんの担当する歌詞でした。それらはいわゆるラップパートで、特に『高速ラップ』で知られるSUGAさんは思いをぶつけるような歌い方で知られています。じつは私も聞き取るのが難しいほど速い。
そのラップパートで何を歌っているのかを知ると、ファンの皆さんは驚くとともにますます引きつけられるに違いありません。歌詞を知ることは、それを書いたメンバーについて深く知ることなのですね」
「僕の最高の瞬間は」
また同書では、収録された「ファンに愛されている10曲」についてメンバーが思いを明かしており、桑畑さんによるとこの内容も本書だけで読める貴重なものだという。同書から引用してみよう(以下、すべて『BTSレジェンド10曲の歌詞で学ぶ韓国語』より)。
RM 〈Burning Up (FIRE)〉について
「プルタオルネ(燃え上がるぜ)」の曲名を決めたのは、SUGAさんのおかげでした。慶尚道 大邱では勇気がみなぎる時に「マァ、プルタオルネ(おい、燃え上がるぜ)!」と言うらしく、そこに着眼しました。
SUGA 〈Burning Up (FIRE)〉について
「『花樣年華』シリーズはこの時代の若者たちに贈る青春賛歌です。なかでも〈Burning Up (FIRE)〉は力みなぎるタイトル曲で、僕が情熱を持って取り組んだ意味深い曲でもあります。ステージのオープニングとエンディングともに僕が出るのも初めてでしたし」
JIN 〈We are Bulletproof:the Eternal〉 について
「BTSが成長してきた姿と、その当時のみなさんの姿を思い出しながらこの曲を聴いてくださいね。曲のあちこちに隠されている〈We are Bulletproof Pt.2〉の歌詞も探してみてください」
J-HOPE 〈Life Goes On〉について
「僕たちがアルバムのコンセプト、デザイン、コスチューム、そしてMVまで積極的に参加した曲です。みんなで笑い、楽しみ、議論しながら作りました。メンバーひとりひとりの温もりが感じられる曲だと思います。この歌が、人生に疲れた時に小さな笑みと力になれればと思います!」
JIMIN 〈Magic Shop〉について
「僕たちの音楽とステージで、人々に希望と元気を与えたいという気持ちをこの曲に込めました。つらい時や疲れた時に、この曲を聴いてください」
V 〈Boy With Luv (Feat. Halsey)〉について
「この曲のエンディングでは、メンバー全員が背を向けて右手を上げますが、この動作は〈Boy In Luv〉のエンディングに似ています。僕たちのパフォーマンスも思い出しながら、この曲を聴いてみてください」
JUNG KOOK 〈Yet To Come〉について
「メンバーたちみんなで、自分の『最高の瞬間』について話し合いました。僕の最高の瞬間は、事務所に入所した日だと思います。それを起点に僕の未来が変わりましたから」
彼らがこのように熱く楽曲に思いを寄せている理由は、それぞれの楽曲に、彼らが歩んできた道のり、彼らのありのままの気持ちが込められているからだろう。