大凶作や巨大地震でも“備蓄米”が「無料放出」されない根本的な理由…“有事”だろうと「入札や随意契約で売却」の知られざる背景

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農水省から知事が買うのが基本

 そして「災害時も売却が基本」だと聞いたら、どう思われるだろうか。

 農水省が作成した「米穀の買い入れ・販売等に関する基本要領」という文書がある。公式サイトにもPDFが掲載されており、秘密文書でも何でもない。要するにマニュアルのようなものだ。

 この「基本要領」の第4章は「政府所有米穀の販売」となっており、この中には「災害救助法及び国民保護法が発動された場合の特例」が記されている。

 災害救助法や武力攻撃などが原因で国民保護法が発動された場合、農水省の農産局長は被災地の知事や市町村長の要請に応じて備蓄米を引き渡すことができる。その際、《知事は災害救助用米穀を農産局長から全量買い受ける》と定めている──。

 つまり被災地の知事が農水省から備蓄米を買い、それを被災者に配るというのだ。しっかりと購入代金の支払期限も明記されており、基本的には30日以内だという。

 被害があまりに大規模で、政府が緊急災害対策本部を設置し、自衛隊の派遣も行われている──これらの要件を満たし、なおかつ知事が30日を超える延納を要請すると、3カ月以内の支払に伸ばすことができる。

「備蓄米の無料放出」はウソ!?

「確かに備蓄米は政府の大切な財産です。むやみやたらに無料でばらまいていいものではないでしょう。とはいえ、納税者の税金で備蓄されたコメを被災地で配るためには、知事が農水省から買わなければならないというのはどうでしょうか。この制度設計に違和感を覚える人は少なくないのではないと思います。ただし農水省の『基本要領』には《米穀を販売する価格は、農産局長が別途定める》とも書かれています。これを使って『0円で知事に販売する』とすることは可能かもしれません」(同・記者)

 いずれにしてもネット上で目立つ「災害時に備蓄米は無料で放出される」という投稿は、厳密なファクトチェックを行うと虚偽ということになってしまう。

 第2回【被災地でも知事が農水省から“備蓄米を買う”のが基本だが…実は「無料放出」もあり得る制度の裏事情】では、ならば東日本大震災や熊本地震でさえ備蓄米は無料で放出されなかったのか、との問題についてお伝えする──。

デイリー新潮編集部

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