ハンギョドン、バッドばつ丸の“生みの親”が語る「サンリオは日本一の会社、だけど…」 デザイナーが自分の作ったキャラを描けない“キャラクター大国”の裏事情

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著作者人格権をなくすことはできない

 日本のコンテンツ産業は3兆円を超えるとされ、世界中で日本のアニメや漫画、そしてキャラクターが愛されている。現在開催中の大阪・関西万博でも日本のコンテンツを紹介する展示があった。しかし、これほどのキャラクター大国でありながら、無から有を生み出すクリエイターの立場は非常に弱いと言わざるを得ない。

 また、国民はもちろんだが、キャラクタービジネスに取り組む企業の間でも著作権、そして著作者人格権の認識が十分に浸透しているとは言い難い。著作者人格権とは、キャラクターなどを創作したクリエイターの精神面などを守る権利のことを指すが、こうした概念があること自体があまり知られていないのだ。井上氏もこのように話す。

「著作権はお金で譲れるけれど、著作者人格権はなくせないものであり、譲れないものなのです。会社員の立場でキャラクターを生み出すと、著作権は会社のものになります。ここまでは仕方ありませんが、著作者人格権の扱いがあいまいなのです。僕はこの点は、もうちょっと明確にしてほしい。人格権がないというのはクリエイターじゃない、人間じゃないと言われているのと一緒。説明不足だと思います。

 また、ご当地キャラや企業のマスコットなどの公募には、著作権は譲渡し、著作者人格権は行使しないように規約があります。これは、かなり主催者側にとって有利な規約といえます。主催者側の気持ちはわかりますよ。後になってキャラクターデザイナーとトラブルが起こると面倒くさいから、“納得した人だけが応募してください”という意味だと思う。

 でも、キャラクターデザイナーは“それは嫌だな”と本音では思いながらも、特に若いうちはお金もないからチャレンジするんですよ。選ばれたら賞金こそ貰えるけれど、キャラクターを含め、すべてがクライアントのものになる。下手をすると一切の関わりが持てなくなって、いいように扱われてしまう。これって、あんまりよくないよね。……いや、ぜんぜんよくないな。なんとかならないものかなあ」

「キャラクターは僕に描かせてくれ」

 ちなみに、井上氏はサンリオを退社後も、多くの企業や自治体のマスコットを多く手掛けている。進研ゼミ小学講座のマスコット“コラショ”や、新潟県胎内市のご当地キャラ“やらにゃん”など、他にも名前を出していない大企業や自治体とのプロジェクトなど、多岐にわたっている。そのとき、必ず守っていることがあるという。

「僕がデザインしたキャラクターが公募で採用されたら、対価と引き換えに著作権は譲渡します。ここまでは構いません。ただし、追加でこんなお願いというか、提案をします。“もし、キャラクターを展開するうえで新しいイラストが必要になったら、他の人ではなく、自分に描かせてください”ってね。これはキャラクターデザイナーにとって、凄く大事なことなんですよ。

 公募はだいたい正面や横など3ポーズくらいを提案し、採用されます。でも、大々的に展開しようと思ったら、それだけでは済まないでしょう。ばいばい、おじぎ、泣き顔……いろんなポーズや表情が必要になります。そのときに、キャラを生かした絵を描けるのは、やっぱり生みの親なんですよ。僕が、自分に描かせてくださいとお願いするのは、そのほうが良いものができるし、プロジェクトがより良いものになる自信があるからです。

 でも、公募で選ばれたら、キャラクターデザイナーはほぼ無条件でサインしないといけない場面が多い。特に、若い人は僕のような提案なんてできないし、言えないわけですよね。向こうが提示した契約書には、文章を書いた側もわからないような難しい文面が並んでいるし、当選が目的で、先の展開まで考えている人も少ないかもしれません。そういった弱い立場にあるクリエイターたちを守る仕組みができてほしいですね」

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