松井秀喜氏 「長嶋監督との約束」はホントに“巨人指揮官就任”なのか? 実現への高い壁 生前ミスターが語っていた“もう一つの願い”とは
五十路も半ば
そうした中での、長嶋さんの死、そして「約束発言」。監督就任は一歩どころか、十歩も二十歩も前進と言いたくなる。偶然だが、4月に秋広優人選手がトレードに出され、背番号55も空いている。が、
「そんなにすんなりとは行きませんよ」
と述べるのは、さる巨人軍関係者である。
「監督就任には縁とタイミングがあります。それを考えると、松井には気になる“事情”もある」
まず、懸念されるのは、現在、巨人を率いているのが後輩の阿部監督だということである。
「阿部監督は3年契約です。契約初年度の昨季、見事リーグ優勝を果たした。今季も、勝ち頭だった菅野智之が抜け、主砲の岡本和真はじめ怪我人が続出する中、貯金3(6月9日現在)と踏ん張っている。今季もAクラスなら、来季で沈んでも契約は更新されるのが通例。松井氏からして、阿部を可愛がり、監督就任時にはエールも送っています。松井の性格からして、好成績の後輩を押しのけてまで、監督になろうとはしないはずです」
今年で松井は51歳。もし“阿部後”ともなれば、五十路も半ばとなる。現在、セパ両リーグの監督12名のうち、就任時に今の松井氏より年長だったのは4名。現時点で就任したとしても、新人監督としては、決して若くない部類に入る。歴代の巨人監督を見ても、就任一年目の年齢で今の松井氏より年長なのは、堀内恒夫氏(当時56歳)のみである。さらに、
「松井の場合ネックになるのは、これまで指導者経験がないこと。ヤンキースのGM付特別アドバイザーを務め、1Aや2Aのマイナー選手の指導に当たっていますが、あくまで打撃コーチの補助といった程度で、本格的にチームやゲームのマネージメントなどに関わっているわけではありません。もちろん指導者経験なしで監督になり、成功した人はいますが、コーチ経験はあるに越したことはないでしょう。ただ、現在、後輩の阿部が監督である以上、松井ほどのビッグネームがその下でコーチ入りするのは組織上、難しい。松井は修行を積む機会がないのです」
生卵を投げつけられた王監督
何より、最大のネックと言われるのは、私生活との兼ね合いである。
「松井は引退後、マンハッタンの高級マンションに居を構え、奥さんとの間には2013年と2017年に生まれた2人の息子さんがいます。巨人の監督になるとしても、NYの家庭をどうするのか。単身赴任では、まだ幼いお子さんの面倒が見られない。かといって、家族ごと日本に戻るという選択肢はあるのか。そもそも松井が引退後も日本に帰国しなかったのは、プライバシーが守られないからという面が大きい。NYと違い、日本では街を歩いていると黙って写真を撮られる。それは我慢できないと常々言っています。また、何より、奥さんや子どものプライベートな話が表に出ることを極端に嫌っています。奥さんは未だに何者かは明らかにしていませんし、子どもが生まれた時も、名前はもちろん誕生日すら公にはしませんでした」
仕事と家庭、どちらを取るかは大変悩ましい問題である。
さらには、ファンの思いも複雑であるはずだ。
「松井ファンの中には、松井に巨人の指揮を執ってもらいたいという声もある一方で、巨人の監督にでもなってチームが惨敗したら、マスコミにもファンにもボコボコに叩かれる。そんな姿は見たくないという声もある。実際、長嶋さんだって、監督初年度は球団初の最下位に沈み、1次政権時代には屈辱の解任をされている。王貞治さんもダイエーの監督時代には、怒ったファンから生卵を投げつけられていますからね。監督就任はコアな松井ファンからすれば、必ずしも望んでいることとは言い切れませんし、果たして松井がそこまでのリスクを取るかどうかは未知数です」
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