時速100キロ超の飲酒暴走で「一家4人死亡」12歳長女は重体…「砂川暴走事故」で加害者が主張した「赤信号を見落とした理由」

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言いようのない無力感

 この点、飲酒事故の遺族はどう見ているか。

 1999年11月28日、飲酒運転の12トントラックに追突され、3歳の長女と1歳の次女を亡くした井上保孝氏(飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会幹事)。井上家にとって親子水入らずの箱根旅行が、悪夢に転じた日を振り返って、こう指摘する。

「飲酒運転による事故は、決して過失ではありません。というのも運転手は自分の意思で酒を飲み、その後に運転するという2つの選択をしているのですから。ただ、私たちのケースで運転手に下ったのは業務上過失致死傷罪などで、懲役4年。それからというもの、厳罰化が飲酒運転の抑止に繋がると信じ、活動してきたのです」

 事実、厳罰化は進んだが、今回のように、加害者が自己保身に走った結果、被害者が命を失う場合もあることについて、

「これまでの行動で良かったのか否かと、言いようのない無力感に襲われています。一番辛いのは、私たちと同じような経験をする人が増えることですから。“あちゅい”という長女の言葉や、“わぁーん!”という次女の泣き声が、私や妻の頭から離れることはないのです」

(以上、「週刊新潮」2015年6月25日号より)

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懲役23年の実刑判決

 事故は裁きの場に移ってもなお、世間の高い関心を集めた。

 Kは9日に道路交通法のひき逃げで、Tは12日に刑法に対する特別法・自動車運転行為処罰法の危険運転致死傷でそれぞれ逮捕されたが、再逮捕などを経て、両者とも危険運転致死傷とその共謀関係、酒気帯び運転、5人のひき逃げでの起訴となった。さらに「予備的訴因」として、過失致死傷と過失致死、長男のひき逃げが追加された。

 起訴の要因となる「訴因」(罪名)には「主位的訴因」と「予備的訴因」の二種類がある。今回は2人が別々の車に乗っていたことから、「主位的訴因」で最も重罪となる危険運転致死傷罪の共謀が成立しなかった場合を考慮し、「予備的訴因」が追加された。

 裁判員裁判の初公判は2016年10月17日、札幌地裁で開かれた。TとKは共に共謀を否定し、危険運転にはあたらないと主張。Tの弁護側は酒気帯び運転と予備的訴因の過失運転致死傷罪を認めたものの、「赤信号を見落とした」理由として「サングラスを足元に落とした」ことを挙げて、世間を唖然とさせた。

 検察側の求刑はそれぞれ懲役23年。11月10日の判決公判でも、懲役23年の実刑判決が下った。Kは21日に、Tは24日に控訴したが、札幌高裁が2017年4月14日にどちらも棄却。これを受けてTは上訴権を放棄し、判決が確定した。Kは上告したが2018年10月に棄却され、こちらも判決確定となった。

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「車外に放り出された長男は1.5キロほど引きずられた」――第1回【「地元で有名なワル」2人が飲酒運転で時速100キロ超…「一家5人」を一瞬にして崩壊させた砂川死傷事故から10年】では、事故に至るまでの経緯などについて伝えている。

デイリー新潮編集部

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