27年の時を経て文庫化…虫プロのカルト映画「哀しみのベラドンナ」山本暎一監督が遺した“まぼろしの時代小説”とは
元祖トラウマ映画――「哀しみのベラドンナ」
しかし、1973年6月の封切り公開は、残念ながら失敗で、製作費は当初予算の倍、8000万円に達していました。鳴り物入りで出品したベルリン映画祭でも、無冠におわりました。
8月、月刊「COM」などを出版していた虫プロ商事が倒産。ひきつづき11月には本体の虫プロも倒産します。時期的に、いかにも「哀しみのベラドンナ」が倒産を招いたように見られてしまいましたが、すでにそれ以前から、倒産は時間の問題だったようです。
この前後、山本さんは、虫プロ商事の社長代行・西崎義展、SF作家・豊田有恒、脚本家・藤川桂介らとともに新作「宇宙戦艦ヤマト」を企画するのですが、この時点では、どこのTV局も買ってくれませんでした(のちに山本さんは、監修・構成・脚本などを担当)。
「哀しみのベラドンナ」は、その後、半ば忘れられた作品となりましたが、近年、海外での再評価がはじまり、2015年にアメリカでレストア版が公開。2016年には台湾の映画祭でも再公開されました。そして昨年からは、逸失した深井国のアート原画を復元する「ベラドンナ原画復元計画」がはじまり、クラウドファンディングであっという間に目標額を達成しています。
いまでは、その強烈な“ぶっ飛び”画面、サイケデリックな音楽(佐藤允彦)、意表をつく展開に、「元祖トラウマ映画」「カオスでカルト」との声もあるようです。たしかに交合シーンや、局部のアート的表現は、あまりに独特で、1970年代に、どこからこんな手法を考案したのか……。よくこれが映倫の審査を通ったものだと驚かされます(実際、映倫の削除指定はなかったそうです)。ラストが、一種の“フェミニズム・メッセージ”で終わるところも現代的です。
声の出演も豪華で、長山藍子がアノときの声を、迫真のリアルさで演じています。悪魔(男根)を演じた仲代達矢は《「わたしも、なが年、役者をしていますが、男根を演じることになろうとは思いませんでしたよ」》と語っています(『大江戸春画ウォーズ』に、そっくりのキャラクターが登場します)。
山本さんは、1989年刊行の『虫プロ興亡記』の最後のほうで、こう書いています。
《『哀しみのベラドンナ』は、感覚が斬新すぎるのだという評があった。観客は、半歩先へ行っているものは好むが、一歩も二歩も先へ行っているものにはついてこないという。明太は、そんなに先へ行っているとは思わないのだが、現に客が入らないのだからそうかもしれない。時代がすすめば再評価されることもあるよと、なぐさめてくれる者もいた。》
いま「哀しみのベラドンナ」は、配信でいつでも観られます。「千夜一夜物語」「哀しみのベラドンナ」、そして『大江戸春画ウォーズ』――ようやく「時代」が、山本暎一さんに追いついたのです。
(一部敬称略)
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