ソフトバンクが12年ぶりに“Bクラス”で交流戦入り…秋広の「誤算」と甲斐流出の「余波」
秋広の「計算外」
5月25日のオリックス戦でのことだった。9回表の守備に就いた時点でスコアは5対10。敗戦は濃厚だったが、オリックス打線は3連打を含むヒット4本と四球で、さらに3点を追加した。そのヒット4本全てがレフトを守っていた秋広の前に転がった。その際、三塁コーチャーは二塁走者にも本塁突入を指示し、右腕を回し続けた。秋広は前進して捕球し、速やかにバックホーム返球したが、ひとつもアウトにできなかったのだ。
「オリックスは秋広の前に打球が行くと、迷わず本塁に突入させました。ソフトバンクは秋広の肩が強くないことを本当に知らなかったようです。完全な想定外でした」(前出・同)
秋広の母校・二松学舎大付高時代まで遡れば、彼は投手も兼任し、140キロ後半の球速をマークしていた。また、巨人在籍中、試合前の外野ノックで、後方のフライにオロオロする場面もあったが、「守備難」の印象はなかった。「200センチの高身長のせいで俊敏に見えないだけ」と思われていたが、一部チームのスコアラーたちの見方は違った。捕球後の返球の勢いも見ていて、“狙い打ちの実証テスト”に出たようだ。
巨人時代のエピソードとして、こんな話も聞かれた。
「秋広の打席で2ストライクになると、同年代の選手たちが『やるぞ、やるぞ』と言って笑うんです。秋広はスタンド中段に放り込む長打力がありながら、バットの先にボールをコツンと当てて、内野手の頭を越えていくヒットや、野手間を抜けていくゴロヒットを打つのが好きなんです。阿部慎之助監督(46)や歴代打撃コーチが『もったいない』と、何度か言い聞かせて来ましたが、改めませんでした」(チーム関係者)
だが、その秋広の意思を認めたソフトバンク首脳陣の度量の広さの結果は数字に表れている。今季、7打数1安打で打率1割4分3厘と低迷していたが、ホークス移籍後は24打数6安打(打率2割5分)で出塁率は3割5分7厘まで跳ね上がった(6月1日時点)。ホームランよりも本来の長所である「コンタクト率の高さ」を伸ばすとした方針にも期待が持てそうだ。
「長打にこだわらない、これからの秋広にも期待したいですが、やはり左打者の多いチームなので、戦力が重複してしまいました。同じ左バッターの笹川吉康(23)、川瀬晃(27)、柳町達(28)、緒方理貢(26)らももっと必死になると思ったんですが」(前出・地元メディア関係者)
秋広の加入直後、近藤の復帰も発表された。選手層の厚さで出場機会の少なさを知っているからだろうか。危機感や競争意識の高まらない雰囲気もチーム低迷の一因である。
「ソフトバンクが補強すべきウィークポイントはやはり捕手でした。甲斐拓也(32)が抜けた穴は大きいですが、絶対的な正捕手がいなくなり、新しいチームを構築しようと必至になっています」(前出・スポーツ紙記者)
平均試合時間から見えてくるもの
興味深いデータがある。平均試合時間だ。ソフトバンクの延長戦を含む1試合当たりの平均試合時間は3時間11分(同時点)。昨季は3時間6分だったので、1試合当たり5分程度長くなった計算になる。プロ野球界全体が時間短縮に向けて努力しており、各球団ともその方向に向かっているが、今季のソフトバンクは試合時間が長くなっている。その理由として挙げられているのが、バッテリー間のサイン交換だ。
「投手が捕手の出したサインに首を振る回数が増えました。サインが合わなければ、投手はいったんマウンドを外して仕切り直します」(前出・関係者)
チーム関係者などによれば、甲斐のいた昨年までと今季で、試合前のバッテリーミーティングのやり方は変わっていないそうだ。対戦チームの各打者の好不調、前日までに見られた打撃傾向などが確認され、ウィニングショットの球種とそれを投じるコースも話し合って決められていく。打者一巡目と二巡目以降の配球パターンを切り替えるタイミングなども話し合われるそうだ。
「この配球で攻める」との確認がされていて、投手が首を振る回数が増えたということは、ウィニングショットを使う場面のイメージが投手と捕手で異なるためだ。
小久保監督はここまで谷川原健太(28)、海野隆司(27)、21年途中から支配下登録された渡辺陸(24)、34歳のベテラン・嶺井博希の4捕手を使い分けてきた。チームの勝敗や先発投手との相性でスタメンマスクを代えてきたが、試合時間は長くなったままだ。
「谷川原は同じ配球パターンを繰り返すクセがファーム時代から指摘されていました。甲斐喪失をいつまでも悔やんでいても始まりませんが、4捕手のうちの誰かを選んで実戦のなかで育てていくべき」(前出・同)
リーグ連覇、日本一奪還の使命を与えられた以上、小久保監督は「実戦のなかで育てる」選択がとれないのだろう。城島健司チーフベースボールオフィサー(48)はリチャード放出は巨人側の強い要望と語っていたが、その後のチーム発奮に期待していたはず。浮上のきっかけを掴みきれない原因は負傷者の続出だけではないようだ。




