推定評価額22億円がガレキの山に 中国でも前代未聞の豪華すぎる「違法建築物」、取り壊しが物議を醸した理由とは

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村の“名所”になっていた「違法建築物」

「ああ、やっとか」――5月28日未明、ブルドーザーの轟音を聞いた村民はこうつぶやいたという。場所は中国広東省汕頭市の西、潮陽区のとある村。近年話題になっていた“名所”はこの日の早朝、ガレキの山に変わった。東京ドームの0.8個分、約3.8万平方メートルの広大な敷地に石造りの門や中国の伝統的な建物が並ぶ「英之園」である。

 建築面積は約1万平方メートル。立派な祠を中央に、北方の伝統家屋である四合院4棟、一般的な伝統家屋5棟、洋式家屋7棟などが集まる様は、まるで建物博物館か歴史保存地区のようだ。広東省の三大民族・潮州人と汕頭周辺の「潮汕文化」を随所に取り入れた見事な意匠が施され、「芸術作品」と称する声も多かった。

 長く非公開だったため、1回1時間で1日数回だけ公開された際は見学者が殺到。観光資源になるのではと見る向きもあったが、実はひとつだけ大きな問題があった。推定評価額1億1400万元(約22億8000万円)の超豪華な建物群は、「不法占拠」の土地に建つ「違法建築物」だったのだ。

居住者は管理人男性と犬一匹

「不法占拠」となった経緯は単純だ。「英之園」があった土地は耕作地に囲まれた工業用地だが、2013年に建設計画の許可なく工事が始まり、おまけに建ち始めたのは住居だった。さらには敷地の拡張により「耕作地の破壊」という違法行為もあり、村民たちは早い段階から地元当局に苦情を申し立てていた。

「汕頭にあるとんでもない違法建築物」として注目されるようになったのは、問題が表面化した2015年頃のこと。それでも工事は続き、見事な家屋がコツコツと造られていったが、唯一の長期居住者は管理人を自称する男性と犬一匹だけだったという。

「英之園」のオーナーは元村民で、いわゆる“地元の実力者”である陳英彪氏。若い頃は人民解放軍の兵士だったが、当時を知る村民は「平均より上だが裕福とまでは言えない家」と明かしている。巨額の建設資金を用意したのは、恵州などで成功を収めた陳氏の息子3人だった。

「英之園」が驚くほど巨大になった理由

 中国には郷里に大きな建物を造り、一族の繁栄を盛大にアピールする習慣がある。「英之園」もまた、父親への敬意を表し、故郷に錦を飾る目的で造られたようだ。「英之園」が驚くほど巨大になった理由は、潮州人が特にこの習慣を重んじるからだとみられている。

 とはいえ、父親への敬意と一族の繁栄を違法な手段で示すとは本末転倒。父親名義で行われた地元への寄付や、建設に関係した役人が責任に問われた件なども報じられ、長年見逃された背景は察するに余りある。しかも、陳一家は問題解決のために地元当局が開いた公聴会に協力せず、2020年には建物の没収通告を拒否していた。

 没収通告以後の3兄弟は訴訟で対抗したが、ちょうどその頃から不動産バブルの崩壊が始まる。不動産で成功していた3人兄弟は、会社への融資絡みで銀行との訴訟を抱えるなど衰退していった。2025年には所有する不動産が競売にかけられており、「英之園」のために使う3人のカネも時間もついに尽きたようだ。

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