中学生どころか小学生まで!? “金の卵”を巡るアマチュア野球の「スカウト合戦」過熱化で「保護者とトラブルになることも…」

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 5月は高校野球をはじめ、大学野球や社会人野球、独立リーグで多くの公式戦が行われ、プロ球団のスカウト陣が連日、ドラフト候補を視察すべく、全国の球場に足を運んだ。10月のドラフト会議当日まで、こうした動きは続くが、今年に関してスカウト陣からよく聞かれる話がある。それが高校生の有力候補にプロ入りを希望せず、進学や社会人入りを選択する選手が多いということだ。【西尾典文/野球ライター】

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進路実績で大学の名前を売りたい

 選抜優勝の立役者となった横浜を牽引した強打の外野手・阿部葉太は大学へ進学、関西で注目のショートである赤埴幸輝(天理)は社会人入りと報道されている。また、ともにU18侍ジャパン候補強化合宿で素晴らしいパフォーマンスを見せた芹沢大地(高蔵寺・投手)、新井瑛太(滝川・投手兼外野手)もプロ志望届を提出しないことが濃厚だという。

 また大学生についても高校生ほどではないが、プロではなく社会人入りを選択している有力選手が少なくない。

 では、なぜ春先のこの時期に早々に進学や社会人入りを選択する選手が増えているのだろうか。スカウトのひとりは、その理由を以下のように話してくれた。

「大学も社会人も年々出足が早くなっていますね。大学の場合、特待や推薦の枠が決まっていますが、選手側にその回答を春先には求めてくることが多く、選抜の前に進路が決まっている選手もいます。一つあるのは、大学の経営面があるのではないないでしょうか。有望な高校生を獲得して、プロや一流企業の社会人チームに入れることで野球部が有名になり、大学としての価値も上がる。そう考えるようなチームは、大学がかなり全面的に野球部をバックアップしているようです。高校生を勧誘するために、ドラフト候補となっている選手を連れてきていることもあります」

 高校側にも思惑があるという。

「毎年プロに選手を送り出すようなチームは限られており、そうでないチームとしては、まず進学実績を作りたい思惑があると思います。我々、プロのスカウトはドラフト会議が終わると指名した選手の契約などに追われることになりますが、大学や社会人のスカウトは、その間に高校を回って、ある程度、入学させる選手を決めてしまうということも多いようです」(前述のスカウト)

 筆者は昨年、ドラフト候補の取材先で、ある大学の監督と一緒になった。その監督は

「(獲得したい選手が)良くなってから声をかけても遅いから、良くなりそうだと思った時点で声をかけています」

 と話していた。当然、大学や社会人同士の獲得競争も激しくなっており、高校野球の現場で監督やスカウト担当のコーチをよく見かける。“金の卵”を狙うスカウト合戦はプロだけではないことがよく分かるだろう。

スカウト合戦は「小学生」選手にも

 そして“金の卵”を巡るスカウト合戦は、さらに下のカテゴリーで行われている。甲子園の常連校の多くは県外から進学してくる、いわゆる「野球留学」が話題になることも多い。中には監督やコーチだけでなく、プロと同様に“スカウト”という肩書のスタッフを抱えている高校がある。

 有望な中学生を巡る強豪校同士のスカウト合戦も年々出足が早くなっている。

 中学1年生や2年生で、有望選手は、高校の進学先が決めっていることもあるそうだ。

 さらに驚くべきことに、中学の強豪チームの中には、小学生に対する勧誘に熱心なところも少なくないという。ある高校の指導者は以下のように解説する。

「中学のクラブチームは、学校ではありませんから、選手を多く抱えないと運営的にやっていけません。手っ取り早く選手を集める方法としては、やはりOBが甲子園に出場した実績やプロに進んだ実績を活用しています。もちろん、指導にも力を入れていると思いますが、能力の高い小学生に対して、積極的に勧誘しているチームも多いです。選手が学校から帰る時間に校門の付近で待って、声をかけるといった話も耳にします。U12の侍ジャパンや『12球団ジュニアトーナメント』(毎年12月末に開催)に選ばれるような選手は引く手あまたですね。このような選手には、月謝を免除しているクラブチームがあります。そこまでしても、選手が強豪校に進んで活躍してくれれば、チームに箔がついて選手が集まってくる。そういう考えではないですかね」

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