韓国の政局が泥仕合になるワケ 国会議員の2割が法曹関係者 対話より批判・告発合戦が横行

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法的攻防に集中

 このように互いの人格批判を繰り返してライバルを徹底的に追い詰めるのは大統領選挙というビッグイベントだからなのか。韓国の政治に詳しい社会学者は特有の事情をこう指摘する。

「韓国の国会は一院制で議員定数は300人。うち地方区が254議席で比例代表が46議席ですが、このうちの2割近くが元検事、元判事、弁護士など法曹界出身なのです。法律の専門家は議会本来の機能である立法活動に役立つという見方がありますが、実際、彼らは論理的対立と勝敗中心の事案に慣れており政治的交渉より法的攻防に集中する傾向があります。

 政党は庶民派の弁護士ではなく検事、判事出身者に目を付けてスカウトし、ライバル政党の議員を告発したり法的に蹴落としたりすることで、自陣営が有利になる方策を重視してきました。それに加えて前任者を批判しない『前官礼遇』や、カネで罪状が左右される『有銭無罪・無銭有罪』などもあり、国民の司法不信は根強く、司法は弱き者を救うのではなく強き者を救うためにある、との言葉さえよく聞かれるのです」

 これまでの大統領では廬武鉉(2003~8年)と文在寅(2017~22年)が弁護士出身。これに続く尹錫悦(2022~25年)は検察トップの検察総長だった。尹前大統領の部下だった元検事の韓東勲(ハン・ドンフン)国民の力前代表は、2022年3月の大統領選挙で尹錫悦が当選すると新政権の初代法務部長官に指名された。

 文在寅政権時代に、この韓前代表を左遷した民主党の秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官(当時)は判事出身。国民の力院内代表の権性東(クォン・ソンドン)議員は、1985年に司法試験に合格し長らく検事を務めた。研修員では弁護士の呉世勲・ソウル特別市長と同期。国民の力所属で副議長を務める朱豪英(チュ・ホヨン)議員も判事出身だ。

 確かに日本でも人気の高いNetflixやディズニープラスなどが配信する韓国ドラマを見ると、リーガルものがやたら目につく。「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」「SUITS/スーツ~運命の選択~」「ドクター弁護士」「ヴィンチェンツォ」「わずか1000ウォンの弁護士」「法廷プリンス -イ判サ判-」など……。米下院の弁護士出身比率も3割ほどと高めだが、韓国の法曹界は科挙の伝統を色濃く残しており権力に取り込まれやすい面があるという。

「韓国のリーガルドラマには、法律を悪用して私利私欲を肥やすエリート国会議員がよく登場します。そこに正義の弁護士が現れ、権力欲を膨らませる議員に法の裁きを加える、といったストーリー設定で視聴者をスッキリさせるのです。これらのドラマがウケていること自体が、架空の話というより韓国の国民が実際に日常生活で経験していることの証左なのです。日本とは政治文化がかなり違います」(韓国カルチャーに詳しい現地ジャーナリスト)。

 泥仕合のまま迎える6月3日の投開票日。果たして当選者は――。

デイリー新潮編集部

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