都心を低空飛行…羽田新ルート「地価への影響確認できず」は本当か 国交省報告に3つの疑問、独自調査で分かった真実

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報告書に潜む「3つの疑問」

 羽田新ルートの運用が始まったのは2020年3月のこと。飛行機が品川区や港区の上空を低空で飛ぶようになり、当時は騒音や落下物の懸念について伝える報道も多かった。同じように注目されたのが、「不動産価格への影響」だ。

 その“答え合わせ”として、国交省は「地価への影響確認できず」と結論付けたわけだが、私は首をかしげた。なぜかというと、報告書には「3つの疑問」が潜んでいるからである。

(疑問1)なぜか影響を調べる範囲が「5km」になっている

 国交省の報告書を読み、まず目についたのが「調査範囲」の設定だ。

 新ルートの影響を調べる際、その範囲を新ルート直下の幅1kmではなく、5kmの範囲に広げているのである。

 騒音の影響は新ルート直下から1km程度の範囲で顕著だ。であるにもかかわらず、なぜ国交省の設定は5kmになっているのか。

 狭い範囲で調べれば、価格の下落が見られたかもしれない。だが、広い範囲で平均化することで、影響が「見えにくく」なった可能性がある。

 たとえて言うならば、焦げた部分があるかを確かめるのに、ケーキ全体をミキサーにかけて味見するようなものだ。

 報告書には、範囲を5kmにした根拠についての説明は見当たらない。広い範囲で平均化することで、あえて影響を「見えにくく」したという疑念が拭えない。

(疑問2)A滑走路着陸ルートに見えた「下落」の兆候

 次に目を向けたのは、南風時に運用される「A滑走路着陸ルート」のデータだ。このルートでは飛行機が高度1000~2000フィート(約300~600m)の低空で飛ぶことになる。

 地価の変動率を比較した図を見ると、興味深い事実が浮かび上がる。

 新ルート運用前の「2016~2020年」と、運用後の「2020~2024年」を比較すると、Aルートの影響範囲内にある場所の地価中央値は、新ルート運用前後の方が下げ幅が大きいのだ

 それなのに、報告書はこう書いている。「大きな変化は確認されない」、と。

 新ルート運用前後に見られる下落について、報告書は「大崎・五反田の再開発事業等」がこの下落に影響した可能性があるとしている。

 だが、そうした要因を持ち出して、新ルートの影響を否定するのは、あまりに恣意的であると言わざるを得ない。「再開発」などといった後付けの要因を列挙することは、いくらでもできてしまうからだ。

(疑問3)サンプル不足なのに「変化は確認されない」と結論

 南風運用時のA滑走路着陸ルート・C滑走路着陸ルート以外でも、気になる点が見つかった。「荒川沿いを北上するルート」と「川崎上空のルート」である。

 この2つのルートでは、「新ルート直下500m以内」のデータが少ないという問題点があるのだ。

 荒川沿いを北上するルートでは、飛行経路から500m以内で調査したサンプルがわずか10件しかない。

 川崎上空のルートに至っては、飛行経路から500m以内のサンプルが、なんと「ゼロ」なのである。

 このような少ないサンプル数をもってして、影響を的確に捉えることは難しいはずだ。それにも関わらず、「特段大きな傾向の変化は確認されない」と言い切るのは、いささか乱暴すぎるのではないだろうか。

 報告書が出すべきは、「傾向の変化は確認されなかった」ではなく、「データが乏しくて、何も分からなかった」との結論だったのではないか。

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