なぜ、酒類業界は「50代女優」を求めるのか 「原田知世」「鈴木京香」「天海祐希」が持つ魅力

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若者の酒離れの影響

 大人1人当たりのアルコール飲料の消費量は1992年度の101.8リットルをピークに減少傾向にある。2022年度には75.4リットルにまで落ちてしまった。激減である。主な理由は酒を敬遠する若者が増えたためだ。

 若者が離れたのはアルコール飲料だけではない。車、バイク、タバコ、ファッションなどのブランド品等々。若者はかつてほど消費をしなくなった。

 それは統計にも鮮明に表れている。総務省の全国家計構造調査によると、30歳未満の単身勤労者世帯の「被服及び履物」への支出額は、バブル期の1989年には男性が月平均1万1445円で、女性は2万1398円だった。

 ところが、2019年は男性が5106円で女性は9926円。30年で半分以下になってしまった。消費にとっての危機とすら言える。

 モノを売る側は若者の消費を喚起する一方、新たなターゲットを開拓しなくてはならない。それが50代だったのである。するとCMの顔も50代が増える。

 50代女優の起用はビール飲料、ノンアル飲料に限らない。石田ゆり子(55)は資生堂、味の素、日本マクドナルドのCMに出演中。常盤貴子(53)は資生堂と興和に登場。松嶋菜々子(51)は江崎グリコ、大正製薬などに出ている。

 原田と並んで角川映画のスターだった薬師丸ひろ子(60)は60代を迎えたが、明治のCMに出演している。雇用延長と健康寿命の伸びもあり、今後も50代と60代の芸能人のCM起用は増えるに違いない。

 スポンサーが変わると、CMが命綱である民放も変わる。2020年4月の個人視聴率導入以降、日本テレビとフジテレビは売上高が伸びやすいコア視聴率(13~49歳)を強く意識している。TBSは新ファミリーコア視聴率(4~49歳)だった。テレビ朝日は個人全体視聴率(4歳~)である。これが変化した。

 TBSは昨年10月から区切りを50代にまで拡大した新指標・LTV4-59(4~59歳)を導入。スポンサーと歩調を合わせた。

 各局の2024度の業績は次の通りである。プライム帯(午後7~同11時)の個人全体視聴率とコア視聴率、LTV4-59の数値とそれぞれの順位、さらにCM売上高だ(各社決算資料より)。

【日本テレビ】個人全体5.0%(2)、コア3.9%(1)、LTV4.4%(1)、CM売上高約2222億円

【テレビ朝日】個人全体5.3%(1)、コア2.3%(4)、LTV2.9%(4)、CM売上高約1743億円

【TBS】個人全体4.2%(3)、コア3.0%(2)、LTV3.5%(2)、CM売上高約1636億円

【フジテレビ】個人全体3.4%(4)、コア2.6%(3)、LTV3.0%(3)、CM売上高約1137億円

 日テレはコアもLTV4-59もトップ。効率が良く、売上高も断トツ。テレ朝は個人全体視聴率ではトップだが、50代までの支持が厚くないため、CM売上高が伸び悩む。

 TBSは50代までに強いから昨年度よりCM売上高を伸ばしている。テレ朝に迫る勢いだ。フジは人権を軽視した社内体質と番組制作能力を一遍に改善しなくてはならないから道は険しい。

 50代が釘付けになる番組が増えるか。

高堀冬彦(たかほり.ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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