3500億円で「中野サンプラザ」再開発断念に学ぶべき 少子化の日本に“血税マンション”は必要ない

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高層化とセットで成り立つスキーム

 現在、全国百数十カ所で都市再開発が進められ、また計画され、そのほとんどは、判で押したように高層ビルやタワーマンションの建設とセットになっている。その理由は再開発なるものが、高層化によって成り立つスキームで進められるからである。

 都市再開発法の規定で、再開発を進めるためには地権者の3分の2以上の同意を得る必要がある。ハードルが高いように思えるが、全国で再開発が進むのだから、同意する地権者が多いということだ。再開発が進めば土地そのものは個人のものでなくなるが、それでも同意するのは、お金がかからないからだろう。

 再開発事業とは、建物を高層化してあらたな床(保留床)を生み出し、それを売却して得る利益を建設費に充てることで成り立つ仕組みになっている。保留床をディベロッパーに買い取ってもらうことで建築費が捻出されるので、基本的に地権者は持ち出さずに済む。言い換えれば、拡大再生産が大前提になっている。

 しかも、店舗やオフィスよりマンションのほうが収益性は高いという理由で、保留床はマンションの割合が多くなる傾向にある。もっとも、保留床だけで建設費をすべて賄うのは事実上困難なので、国や都道府県、市町村の補助金に頼ることになる。

 実際、全国の再開発事業のほとんどで、総事業費の3割から5割が補助金で賄われている。しかも、このところの資材高騰を受けて、国は2022年に「防災・省エネまちづくり緊急促進事業補助金」を創設。財政支援の厚みは増している。

 巨額の補助金が支給されるのは、もちろん、事業の公共性が高いと判断されているからだが、はたして公共性はほんとうに高いのか。

地権者を助けても町は持続不可能

 再開発地区の地権者は異口同音に「持ち出しは避けたい」という。そこで、人口が減少して空き家問題が深刻化するのもお構いなしに、保留床として何十戸、何百戸というマンションをあらたに供給し、そこに巨額の税金を注ぎ込ませる。いわば、地権者を助けるために巨額の税金を注ぎ込んで、近未来に確実にお荷物になるものをつくり、将来にツケを回している。現行の再開発のスキームとは、そういうものである。

 6月にも公表される2024年の出生数(確定値)は70万人を割る見込みだという。そのうえ、今年1、2月の出生数(速報値)も前年の同時期とくらべて5.4%減っており、25年の出生数は65万人程度になりうる。日本の人口は30年後に1億人を割り込む、という予測があったが、それどころか20年後には割り込みそうな勢いである。

 日本の空き家率は23年に13.8%と過去最高を記録し、今後、増加の勢いが増すのは確実な情勢だ。あらたな住宅の供給は控え、既存の地域をてこ入れしていかないと、日本中がゴーストタウンだらけになってしまう。それなのに、空き家対策には無策なまま、再開発に私たちの血税を何十億も何百億も注ぎ込んで、激しく人口が減少しようという局面に新築マンションを提供する自治体とは、いったいなんなのか。

 ついでにいえば、再開発で提供されたマンションの多くが、外国人をはじめとする投資家のターゲットになった、という実例も珍しくない。

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