3500億円で「中野サンプラザ」再開発断念に学ぶべき 少子化の日本に“血税マンション”は必要ない

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縮小しながら魅力を高める方向へ

 多くの自治体が意識しているのは、都市間競争だともいわれる。選ばれる町であるために再開発が必要だ、という論理である。では、その結果、「選ばれた」としよう。だが、どこかの町が選ばれれば、どこかの町は沈む。さもなければ、同じ市町村のなかで選ばれた地区と選ばれない地区との明暗がいっそうはっきりする。人口減少社会において、それは避けることができない。

 再開発がどうしても必要であるなら、地権者が持ち出さずに済むように拡大再生産を前提とする、というスキームを抜本的に変える必要がある。拡大再生産が前提のスキームではなく、むしろ縮小しながら魅力を高める、街並みを維持しながらリノベーションして町の価値を高める、といった方向に抜本的に転換する必要がある。

 現行のスキームは、流行りのSDGsやサスティナビリティからもっとも遠い。これを続けていたら、社会がもたない。中野サンプラザの再開発の白紙化が転換の契機となることを切に願う。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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