【後編】「渡鬼」脚本を執筆「AI橋田壽賀子」は“ご本人”を超えたか? 辛口コラムニストは「ファンなら見る価値はある」
TBSの関与は薄い?
アナ:たとえそうであっても、それはそれで興味深いドキュメンタリーになると思いますけど。
林:今回の番外編は制作著作にTBSがクレジットされていなくて、ただ「一般財団法人 橋田文化財団」とあるだけ。そのうえ「橋田壽賀子生誕100周年記念」だの、「AI橋田壽賀子企画」だのなんて大看板をドーンと掲げちゃってるから、AI裏話があってもシケた内容なら表に出したがらないかも。番外編のラストのスタッフ一覧にはTBSという文字がひとつもなし。メカ壽賀子プロジェクトについてTBSの関与は薄く、橋田財団が主導したのではないかという印象ですわ。
アナ:そうでしたか。であれば、メイキングのドキュメンタリーが見られる可能性は低そうですね。
林:たとえTVのドキュメンタリーではなくても、雑誌の記事とか単行本とか、どんな形でもいいから、メカ壽賀子の誕生と育成、活用の現場を見てみたかったけどね。いや、もう脚本が出来上がっちゃった後の撮影現場でもいいのよ。かつては厳禁だったというセリフの現場直しが壽賀子没後の今はちょっとくらい解禁されてるんじゃないのとか、プロデューサーのふく子98歳はお達者ですかとか、そういうレベルでも知りたいことがたくさんある。
肝心の出来は?
アナ:……あれ。ちょっと嫌なことに気づいてしまったかも。今回の「渡鬼 番外編」というドラマそのものについては、さっきから林さん、ずっと評価を避けていません?
林:バレたか。それなら、もう言っちゃいましょう――メカ壽賀子、晩年の壽賀子から大きく劣るようなことはなくて、そこはちょっと感心したけれど、当人を超えるほどのホン屋(脚本家)では今のところまったくありません。“彼女”に「渡鬼」のスペシャルなりシリーズなりの新作を書かせてみたらどうだろうとは、TBSも考えないでしょう。そもそも「渡鬼」、視聴者の年齢層が高齢化しすぎて、今の民放地上波では成立しづらいし。
アナ:そう言われてみればそのとおりかもしれません。では、AIうんぬんを忘れてドラマ単体として見たときに、他人様にお薦めできる作品でしたか、という質問には林さん、どうお答えになります?
林:「渡鬼」ファン、壽賀子マニア、ふく子フォロワーのアナタであれば、従来ならありえなかった奇跡の新作として、たとえ正味23分のミニ外伝だとしても見る価値ありです。一方、それ以外の皆様には……まずは生身の壽賀子脚本によるオリジナルの「渡鬼」のほうを推奨するなぁ。今ならBS-TBSで伝説の第1シーズンが放送されているし、TVerでも第6シーズン――あのコマっしゃくれた天才子役・えなりかずきの全盛期――が見られて、どっちも無料。
アナ:薄い新作より濃い旧作、ですか。
林:そのとおり。ま、メカ壽賀子作の番外編も、まだしばらくTVerで配信するみたいだけど、現在ただいまの時点では、壽賀子は生身に限る。
アナ:なんですか、その「目黒の秋刀魚」みたいなオチ。
【前編】では、「渡鬼」とは何だったのか、その新作を書いたAIの意義について言及している。





