勝新太郎を見習って時代劇でも輝いた「いしだあゆみ」 どんな役でも感じられた独特の“色気”

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勝新との思い出

 70年代には、勝新太郎・主演のドラマ「新・座頭市」シリーズ(フジ)に出演。原作・池波正太郎、監督・五社英雄の映画「闇の狩人」(79年)では、運命に翻弄されながら裏社会の男(仲代達矢)の情婦となった女に。アウトローを描いた作品が続いた。

「新・座頭市」には第1シリーズ第1話「情けの忘れ雛」、第2シリーズ第12話「雨あがり」、第3シリーズ第10話「市の茶碗」のゲストとなっている。

 強烈だったのは「情けの忘れ雛」の回。悪ヤクザの辰造(藤岡重慶)に捕らえられ、縛られたまま迫られる飯屋の女将おしの(いしだ)は、畳から市の仕込み杖の切っ先が突き出ているのに気がつく。とっさに身をよけると、切り取られた畳が辰造を乗せたまますっぽりと落下。床下の市はおしのに「(幼い娘のところに)早く帰っておやんなさい」と言い、辰造を斬る。

「『新・座頭市』は楽しかったですよ。勝さんが『あゆみ、ここは泣いた後の後ろ姿』『泣き疲れた後姿』と言いながら、私の動きを全部見せてくれるんですけど、それが素晴らしいの。勝さんが演ったほうがいいんじゃないって思うくらい(笑)。私は『見習う』って大好き。自分の出番がなくて休憩と言われても、セットでぼーっと見てるのが好きですね。駅やホテルのロビーでも、1時間でも2時間でもぼーっとしている。これは特技かもしれないです」

これからはおばあちゃんの役を

 そして1980年、TBSの大型企画「源氏物語」に出演する。脚本・向田邦子、演出とプロデュース・久世光彦。父・桐壺帝(芦田伸介)の寵愛を受ける藤壺(八千草薫)との禁断の恋に始まる光源氏(沢田研二)の華麗な恋愛遍歴が豪華キャストによって綴られたスペシャルドラマで、いしだは「男を惹きつけて離さない女」と石坂浩二のナレーションで語られた夕顔を演じた。夕顔は廃屋で逢瀬となっても源氏の素性を聞かない。「どうして名を尋ねない」「あなたもお聞きにならないから……」。しかし、夕顔の命ははかなく消えてしまう。

 時代劇では83年放送の「大奥」(フジ)で演じたお喜世(7代将軍・家継の生母・月光院)を除いて薄幸な女性を演じていることがほとんどだったが、どんな身分の役でも独特の硬質な色気を感じさせる。徹底した役作りをしているのかと思っていたが、現場では監督が求める人物になり切ることを大事にしていると語ってくれた。

「健康で元気には見られたいけど、若く見られたいとは少しも思わない。これからは、おばあちゃんの役をいっぱいしたい」とも語っていた。薄幸な老女でも、けらけら笑うおばあちゃんでもいい。時代劇で見てみたかった。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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