「米国で近く内戦勃発」の噂に現実味…トランプ政権も民主党もアテにならない現状が向かう先は「民主制の否定」か

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トランプ政権のはしか対策に疑念

 関税政策とともに、連邦政府の大リストラも大きな問題を抱えている。

 米疾病対策センター(CDC)は14日、昨年の薬物過剰摂取による死亡者数は前年比27%減の8万391人と発表した。減少幅としては過去最大、2019年以来の低水準だ。

 CDCはこの減少について、麻薬鎮痛剤「オピオイド」の働きを妨げる拮抗薬が広く入手できるようになったことが大きく貢献したと述べた。だが、トランプ政権の連邦予算削減のせいで、今年以降は死亡者数が再び増加するのではないかという危惧がある。

 また米国は現在、25年ぶりのはしかの流行に見舞われているが、国民の4割がトランプ政権のはしか対策に疑念を抱いていることがロイターの世論調査でわかった。

米国の大都市が再びスラム化か

 農務省で家畜衛生部門の専門スタッフが多数退職に追い込まれたことを受け、鳥インフルエンザ対策に影響が出るとの声も上がっている(5月12日付ロイター)。関税によるインフレ不安が高まる中、ニワトリが大量に殺処分されたことで記録的な高値となった鶏卵価格がさらに上昇することになれば、“泣き面に蜂”だ。

 社会保障分野の連邦職員が大量に解雇されたことも気がかりだ。

 想起されるのは、1980年代の米国だ。当時のレーガン政権が社会保障予算を大幅に削減したため、米国の大都市の治安は軒並み悪化した。1990年代以降、対策が強化されて大都市の治安は回復したが、トランプ政権の「弱者切り捨て」により、米国の大都市が再びスラム化してしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。

トランプ氏に失望、民主党もあてにできない

 このように、トランプ政権への不満は高まる一方だが、野党民主党はこのチャンスを生かすことができていない。

 グローバリズムを前提に先端産業中心の国づくりを是とする穏健派と、都市の困窮者への再配分ばかりを主張する極端な左派が対立する構図となっており、ラストベルト(20世紀に繁栄した製造業が衰退して経済的に苦境に陥っている五大湖周辺地域)の有権者の心を取り戻すことができていないからだ(5月15日付ニューズウィーク日本版)。

「トランプ氏には失望したが、民主党もあてにできない」と多くの国民が考えるようになれば、民主制を否定する動きが台頭するかもしれない。

 米国では「近く内戦が起きる」との言説が流布しているが、現下の情勢を見るにつけ、そのリスクがますます高まっているのではないだろうか。

 悩める超大国の今後の動向について、これまで以上の関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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