「僕は道化みたいなもの」40歳の浮気サレ夫 恋愛観の原点は「男を食い尽くす女」との日々

  • ブックマーク

【前後編の前編/後編を読む】妻に無精子症を隠していたら、ある日「あなたもパパよ」と告げられた 今も明かせずにいる夫のプライドと葛藤

 男の浮気は甲斐性などと言われてきた時代から、事情は変わってきている。昨今は探偵事務所にやってくる男性が多いと言う。もちろん、妻の浮気を疑ってのことだ。だが、浮気された妻は同情されるが、浮気された夫はどこか下に見られがちな風潮は今もある。そこには男性性への古い思い込みが残っているからだろう。

「道化みたいなものですよ」

 自嘲気味にそう言うのは、三田幹一郎さん(40歳・仮名=以下同)だ。すらりとした長身、若々しく見える顔立ち、話し方もソフトで非常に感じのいい人なのだが、笑ったときにどこか寂しげに見えるのが気になった。

「そもそもは僕が悪いのかもしれない。でも妻に本当のことを言えないまま、9年も結婚生活を続けています。欺瞞なのかどうかさえ、もう考えないようにしようとしているのかもしれない」

「男を食い尽くす女」

 幹一郎さんは、父がサラリーマン、母はパート主婦、3歳年下の妹がいる家庭で育った。高校までは公立校、大学は私大という「ごくありふれた人生」だったという。大学時代には“大恋愛”もした。

「同じ学部の女の子でしたが、中学高校を海外で過ごしていたそうです。僕より2歳年上だった。かっこいい人でね、それまでかわいい女性に目が行っていたけど、彼女を見てガツンと殴られたような気持ちになった。身長が170センチ近くあって、いつも黒い服を着ていてくわえ煙草でキャンパスを歩いてる。今だったら許されないでしょうけど、その姿が絵になっていました」

 周りからも一目置かれているように見えたが、実際には「涼子には気をつけろ」と言われていた。彼女は「男を食い尽くす女だから」と。

 そんな噂を聞いた彼は日和ってしまって話しかけられずにいたが、ある日、思いがけなく彼女から近寄ってきた。「背、高いね」と一言。

「僕、187センチあるんですよ。ぬぼーっと高くて細いから、よく親から『電信柱みたいだね、あんたは』と言われていました。でも彼女は揶揄するわけでもなく、単なる感想を述べただけという言い方だった。僕に興味があるのかどうかはわからない。でも今度はこちらから話しかけてみようと思いました」

 次に見かけたとき、近寄って「あなただって背が高いよ」と言った。彼女はフッと笑った。目が合うと、吸い込まれそうな深い瞳が迫ってきた。

「いきなりキスされたんです。これも今だとNGでしょうけど、彼女のその大胆さに惹かれて恋に落ちた。それからは毎日のように一緒にいました。彼女のアパートで朝まで抱き合ったり、ふたりでジャズ喫茶にいつづけたり。昭和も後期の生まれですけど、昭和ど真ん中みたいな青春でした。彼女のお兄さんがミュージシャンだったから、ふたりでよくお兄さんが出るライブハウスなんかに行ってましたね」

ある日突然、いなくなった

 涼子さんに心酔するあまり、単位を落として留年、親にこっぴどく叱られた。彼は彼女にどんどんのめりこんでいったが、涼子さんはひとりの男に縛られるタイプではない。彼女のアパートで他の男と鉢合わせしたこともある。男ふたりの争いを、彼女はにこりともせず眺めていた。そしてふたりとも追い出された。

「いわゆる魔性の女なんでしょうね。それでも僕は彼女の“港”だったようです。他の男とは続かなかったけど、僕とは数年続いた。ただ、男女が逆転しているような関係でした。背伸びして彼女に合わせていたけど、結局、彼女は大学を卒業しないまま、ある日突然、いなくなった。彼女の兄に聞いたら、30歳くらい年上の既婚のミュージシャンと駆け落ちしたらしいです」

 ふぬけのようになった幹一郎さんだが、「目覚めてよかったよ」と友人たちは言った。彼女のいない人生を、これからどうやって歩んでいけばいいのかと一時は悲嘆に暮れたが、若いメンタルは、比較的短期間で元気を取り戻すものだ。

「しょうがないですよね、留年もしちゃったし。そこからは少しまじめになって、友人たちから1年遅れて就職しました。ただ、彼女との関係は、よくも悪くも僕の女性選びの原点になっているような気がします」

次ページ:新恋人は「物足りない」

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。