【春ドラマ・トップ5】殺人事件も、裁判もなし “迷走”する「月9」が向かう先

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月9はどこへ向う?

「続・続・最後から二番目の恋」は過去の月9とは異なる。まず主演の小泉今日子は59歳。もう1人の主演である中井貴一は63歳。月9がアラ還俳優を主演に迎えるのは初めてである。

 物語もこれまでの月9とは違う。殺人事件も火災も起こらないし、裁判も司法試験もない。この作品は人生の夕暮れどきを迎えた2人の哀歓を静かに見守っている。

 第1回は小泉が扮するドラマのゼネラルプロデューサー・吉野千明が、勤務先のJMTテレビでセカンドライフセミナーを受講するところから始まった。

 セミナーは定年退職を1年後に控えた社員のための講習会だ。千明は59歳。ドンピシャの対象者だった。

「セカンドライフねぇ。えっ、もう1回生きるの? 第2章みたいな」(千明)

 千明は本人の都合などお構いなしにやって来る定年に対し、軽い苛立ちをおぼえていた。

 定年になると、仕事の中身や肩書き、収入が変わる。このため、定年が迫ると、焦燥感に駆られる人は実際によくいる。身につまされながら千明を観た40代、50代以上の視聴者もいたのではないか。

 次に登場したのは中井が演じるもう1人の主人公・長倉和平。かつては鎌倉市の観光推進課課長など管理職を務めたが、定年が過ぎて再任用の今は指導監という肩書きで、雑多な仕事を押し付けられている。

 和平をイラッとさせるのは現在の同課課長・田所勉(松尾諭)の存在。かつては和平が部下であるこの男を「田所君」と呼んでいたが、今では田所が「長倉君」と言う。長幼の序をわきまえていない。とがめてもあらためない。

 田所ほど無礼な男は見たことがないものの、再任用者を軽んじる人間は確かにいる。やはり40代、50代を中心に共感されそうな一幕だった。一方で10代から30代にはピンと来ないのではないか。自分が再任用になる日は想像しがたいだろう。

 ほかに千明と和平の新たな異性との出会いも描かれているものの、2人の上司と同期が他界するというエピソードもあった。2人は途端に死を身近に感じる。この場面の重みも30代以下には理解が難しいはず。それが視聴率に表れている。

 月9を表す近年のシンボリックな作品は森七菜(23)と間宮祥太朗(31)が主演した「真夏のシンデレラ」だった。オーソドックスな夏の恋物語だったものの、40代、50代以上の視聴者にソッポを向かれ、個人視聴率は3~4%止まり。だが、30代までの視聴率は高く、全連ドラの中でトップクラスだった。

 いくら嫌われても制作サイドは痛くなかっただろう。狙っている若い世代には確実に届いていたからだ。当たり前の話だが、好みのドラマは世代によって異なる。

 これまでとは異質な「続・続・最後から二番目の恋」を放送した月9は今後、どこへ向うのか。フジは5年度連続で個人視聴率4位と落ち込んでいる。現状から脱け出すには月9が40代、50代以上を視野に入れたほうが近道であるように思える。

 しかし、それでは若い世代の失望を招き兼ねず、収益も高まらない。収益だけを考えると、若い視聴者を捕まえたほうがいい。個人視聴率で現在のトップはテレ朝だが、CM売上高はコア視聴率で上回る日テレが圧倒している。フジは悩ましいだろう。

 7月にスタートする次の月9は「明日はもっと、いい日になる」。主演は福原遥(26)で林遣都(34)が共演する。児童相談所が舞台で、そこで児童福祉司として働く2人が、子供たちやその親のために奔走する物語になるという。

 今後の月9の方向性が浮き彫りになる作品になりそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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