「連絡は回覧板」「アポなし訪問で自治会費を集金」…LINEやPayPayとは無縁な“埼玉の団地暮らし”が快適に思えてきた理由
ネットの影響が及ばないコミュニティ
XなどのSNSを使いこなしている人たちは、ネット上の意見こそが絶対だと思っている節がある。それは、いまや誰もがITを活用し、SNSを利用していると思い込んでいるためだろう。しかし、ネットの影響を受けないアナログのコミュニティは確かに存在し、そのなかではまったく異なる文化が形成されているようだ。
埼玉県K市の公民館で、休日に地元団体主催のイベントが開催されていた。このイベントのことを当日にXで検索してみたところ、見つかったポストはわずかに1件だけ。ところが、会場に行ってみると年配者を中心に若い層もみられ、80~100人ほどは参加していた。それなりに盛り上がっているイベントだったが、告知はチラシだけで、ネットで一切なされていない。ネットとほぼ無縁のコミュニティといえる。
一方、同じ日に都内で行われていた人気声優の握手会はまったく別物だった。約50人が参加したようだが、Xには当日の会場の様子から声優の“神対応”ぶりまで、まるで実況中継のように情報が飛び交っていたのである。参加者のほぼ全員がSNSを使っているのではないかと思うほど、声優の一挙手一投足まで書き込まれていた。完全なネット中心の文化であり、コミュニティといえよう。
筆者はシニア向け情報誌や旅行雑誌などで記事を執筆しているので、寺院や飲食店に取材申請を出すことがあるが、連絡手段にメールが使えず、FAXもしくは郵便で申請書や校正原稿を送ることが年に何度もある。首都圏でもそうした事例は珍しくなく、誰もがITを活用しているわけではないという実態が浮き彫りになる。
ネットがなくても生活できる
筆者の同世代にあたる30~40代の人たちであっても、SNSは一切やっていない、スマホは持っているがLINEはダウンロードしていない、そんな人が実際にいる。それで困らないのかと聞いてみると、別に困らないのだという。ある後輩はクレジットカードも持ってないそうだが、生活上不便を感じたことはないと言っていた。S氏は、日本がアナログの慣習を脱却できない要因をこう考察する。
「このアナログ習慣は役所のせいではないかと考えています。役所のホームページは本当に見づらく、使いづらい。役所にいくと大量のチラシや掲示物があるように、紙文化の中心なのです。おそらく、今まで紙で問題ないのだからなぜデジタルにしなきゃいけないのか、という感覚もあるのかもしれませんが、役所が変わっていかないと、日本のIT化はいつまでたっても進まないのでしょうね」
要は、役所がなんでもかんでも紙で対応しているため、ITがなくても生活できるのである。いわゆるネット弱者を取りこぼさないための日本らしいきめ細やかな対応ともいえるが、紙の書類の処理には膨大な手間がかかっていることは想像に難くない。S氏も団地に引っ越す前に親の介護をしていたそうだが、こんなやりとりがあったと話す。
「介護に関連する書類を、毎月100枚くらい書いていました。なぜこんなに面倒なのかと思ったら、書類を受け取る市は“ハンコを押さないと受け取らない”んですって。別にハンコが無くても対応できそうなものですが…。かつて、河野太郎氏が役所のハンコを廃止すると言っていましたが、まだまだ首都圏近郊の自治体にもハンコ文化は根付いているのです」
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