87歳で新作ドラマに出演「伊東四朗」 悪役から物の怪まで演じる「大御所」の味わい

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悪役から物の怪まで

「まだこの業界に入る前、自分の楽しみは浅草や新宿の軽演劇でした。舞台は自分の原点だと思っています。『お江戸でござる』は今どき珍しくお客さんが目の前にいてお芝居をする大切な番組。座長としてしっかりやれているかはわからないけど、達者な人たちに助けられて、観てくれる人が『あー、今日も面白かった』と思ってくれれば嬉しいですよ」

 事務所には出演した作品のたくさんの資料・ビデオが整然と並び、丁寧に仕事をしてきた人なのだなと感じた。この頃から三谷幸喜作品にも欠かせない俳優となり、「竜馬におまかせ!」(96年、日テレ)では坂本竜馬(浜田雅功)が通う道場主・千葉貞吉、大河ドラマ「新選組!」(04年、NHK)では近藤勇(香取慎吾)らが寄宿する壬生の八木家当主を演じている。

 2000年代には悪役としても登場する。

 04年の「忠臣蔵」(テレ朝)では吉良上野介を演じた。元禄14年3月14日、赤穂藩主・浅野内匠頭(沢村一樹)は城中で吉良上野介(伊東)に斬りつけた。内匠頭は即日切腹、上野介はお構いなしと幕府はする。城を明け渡した赤穂浪士たちは、大石内蔵助(松平健)を中心に仇討を決意。制作会見で「オーソドックスな『忠臣蔵』の魅力をしっかり伝えたい」と語った松平に対して、伊東は「賄賂も美人も大好き」の憎々し気な吉良をこってりと演じて見せた。

 12年の大河ドラマ「平清盛」(NHK)では院政により民を苦しめ「現(うつつ)に生ける物の怪」と呼ばれた白河法皇に。清盛の実父だが、息子に愛情などなく、冷たく怖い顔を見せ続けた。

北大路欣也との長い共演

 近年の代表作は、16年から時代劇専門チャンネルなどで放送される北大路欣也・主演の「三屋清左衛門残日録」シリーズだ。北大路とは90年代に「銭形平次」(フジ)で平次(北大路)のライバル・三ノ輪の万七役で長く共演した。

「三屋清左衛門残日録」では役職を退いた初老の武士・清左衛門(北大路)が藩内の不穏な事件に立ち向かう。伊東は町奉行で清左衛門の親友・佐伯熊太を演じる。

「この役は清左衛門と幼なじみの雰囲気を出すことが大切。行きつけの店で清左衛門に『食わないならくれ』と言ってパクパク食べたり、女将の噂話をしたり。呼び捨てできる男同士の遠慮ない会話は面白い。見ている人も快感だと思います。熊太は事件の説明役でセリフが多い。監督から信じられない分量を『一気に撮影』と言われ、私は台本に赤字で一気にと書き込んだほどです(笑)。それができたのも、長く共演した北大路さんだからだね」

 24年も新作「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」に出演。熊太(伊東)は謎めいた娘と藩で起きた凄惨な事件の解決に一役買う。共に80代の北大路と伊東のやりとりは、ますます味わいが深くなっている。次作が待たれる。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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