「3億円事件以来の見事な知能犯」との声も…破綻銀行から白昼堂々と「1億円」を盗み出した平成の「連続詐欺・窃盗」事件

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実は正真正銘の常習犯

 堂々と現れ、余裕しゃくしゃくで現金を持ち去った男。近畿財務局の増井喜一郎局長(当時)は会見で、巨額の現金を出金するなら何重もの確認が通常であり、「にわかには信じがたい」と発言した。京都商銀は破綻申請から2日で65億円の預金が引き出されるなど、なにかと気ぜわしい状況だったという。

 男はそんなときに現れ、相手を信じさせる“内部情報”を使っていた。京都商銀に派遣された“本物”の金融整理管財人は2人、その補佐は4人。男が名乗ったのは、一部の関係者しか知らない補佐の1人の名前だったのである。

 遺留品や指紋を残さないところも用意周到だが、それこそが仇となった。手口から常習犯と睨んだ京都府警が似顔絵を作製すると、愛知県警から過去に詐欺で取調べした60代の男に似ているとの連絡があった。20件以上の余罪を自白した正真正銘の常習犯であることが判明し、京都府警は2001年5月16日に男を指名手配した。

国民健康保険証で御用

 愛知で逮捕された事件は2000年3月、名古屋のデパートが舞台だ。男は“監査に入った経理担当者”を騙って売り上げの確認を求め、現金36万円と商品券を騙し取った。逮捕後は詐欺容疑で起訴、余罪で追起訴となるが、公判中の同年8月に脳梗塞で緊急入院。その2週間後、病院から姿を消していた。

 一方、警視庁築地署も男の顔にピンときていた。2001年4月1日、東京・銀座のデパートの高級貴金属店にデパートの腕章をつけた男が現れ、別室の客に見せると騙って用意させた高級腕時計2点(約280万円相当)を持ち去った事件だ。男は質屋に時計を持ち込んだが、そこで提示した国民健康保険証から身元が割れ、築地署に指名手配されていた。

 逮捕のきっかけもこの保険証である。同年11月28日、男は保険証の更新で兵庫・神戸市中央区役所を訪れた際、指名手配に気づいた職員の通報で逮捕。京都府警で取り調べを受け、10件の窃盗と詐欺罪で起訴された。

 10件の被害総額は1億2100万円に上ったが、男の手元にはほとんど残っていなかった。京都商銀の事件で現金の運搬役2人に5000万円以上の謝礼を支払い、その後は全国の高級ホテルに偽名宿泊。持病の治療を受けた医療機関では保険証を使わず全額現金で支払い、ギャンブルでも浪費していたからだ。

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