常に“命の危険”と隣り合わせ…高層ビル「窓ガラス清掃員」が強風や酷暑以上に“危険”と感じる「高所平気症」とは

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高所窓清掃で対峙する厄介な汚れ

 そもそもこの高所窓清掃は、外観を維持したり、中から外の景色を見やすくしたりするためだけに行われるわけではない。「ビル全体の劣化を防止するため」にも行われる。

 そのため、メンテナンスのためにも定期的な清掃が望ましいのだが、道路沿いの高層ビルや、近くに田畑があり土が舞いやすいビルの場合は、排ガスなどの影響を受けやすいので、1か月に1回程度が窓清掃の目安になるそうだ。

 窓の汚れの原因は、その地域や季節によって大きく違ってくるが、窓掃除をしているとその「季節」を汚れから感じ取ることがあるという。

「花粉や黄砂などが付くようになると季節を感じますね」

「台風の季節になると、通過によって窓ガラスが汚れっぽくなり、依頼が増えます」

「汚れ」でいうと、高所で作業をする清掃員を苦しめる「頑固な汚れ」があるという。

「蜘蛛の巣、あれ本当に厄介で… シャンプー(洗剤を塗る道具)の毛に絡まっちゃうと、なかなか取れなくて手こずります」

「鳥のフンですね。定期的にしか清掃ができない高所窓の場合、付いたらすぐに除去できるわけではないので、その間に干からびたりしてしまうと取りにくくなります。放置すると日光を浴びて酸焼けして白くなってしまう原因にもなります」

作業中の光景

 日光の影響を受けるのは、なにも「汚れ」だけではない。作業員自身も、作業中ずっと日に当たり続ける。言わずもがな、真夏は非常に「暑い」。

「場所や条件にもよりますが、地上よりも体感気温が3度ほど違うとも言われています。日よけになるものが何もないうえ、ヘルメットをかぶっているので本当に暑い。そんな自分とは対照的に、作業中、目に入るビル内の人たちが冷房で寒そうにしているとお互い大変だなという気持ちになります」

 一方、冬は冬で寒い。風が強い高層階では体感温度が下がるのだ。

「そうすると行きたくなるのがトイレです。しかし高所窓清掃の場合、一度作業が始まると終わるまでトイレには行けません」

窓清掃あるある

 今回も、最後に恒例の現場あるあるを紹介しよう。

「観覧車やスカイラウンジなど、お金まで払って高いところを楽しむ意味が分からなくなる」

「同じようにハーネスをつけるものではあるけど、バンジージャンプは絶対できない」

「休日でもビルを見ると掃除のしやすさなどを考えてしまう」

「フル装備完了後になぜかトイレに行きたくなる。さっき行ったのに」

「夢でロープが切れる夢を見ることがある」

 危険が伴う現場の仕事。そのなかでも魅力を感じるのが応援だという。

「中の人と話ができない時、紙に書いて『綺麗になりました。ありがとうございました』や『気を付けて』と伝えてくれる時は本当に嬉しい」

「ジェスチャーで『頑張って』と伝えてくれることがある」

「小さい子どもが指をさして「すごーい!」って言ってくれたり、手を振ってくれたりすると嬉しくなります。一番の魅力は、絶景を独り占めできること。東京のビル群、新潟など自然に囲まれた景色、普通は見られない場所から眺められるのは、この仕事の特権ですね」

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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