日本人が知らないトランプ関税“ウラの理由”…「メキシコ」「カナダ」「中国」を槍玉に挙げた背景に“今そこにあるドラッグ危機”

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「アメリカ国内で密造することも可能だ」

 治療を使途とする対策費として、バイデン政権が約6兆円を支出したというが、これが継続しているのかどうか、また、継続できる財源を確保できているのかどうか、この点がよく分からない。国の支援がなければ今のアメリカの医療制度の下では被害者たちが立ち直ることはほぼ不可能だろう。とはいえ、結局は筆者自身も効果的な意見を述べることができない。「アンドリュー博士の意見の通り、原則、国費での治療を優先してほしい」としか言いようがない。

“薬物は簡単に人を殺す”。そして、薬物問題は“貧困、医療、公衆衛生、社会保障、差別、教育、経済、治安”など、様々な問題と密接に関係していることを改めて理解していただきたい。これが全ての始まりだ。

 そして、最後に元麻薬取締官としてひとこと言わせてもらうならば、メキシコ・カルテルはこう考えていると思う。

「密輸が阻止されたらアメリカ人の方からやってくるだろう。それも不可能になったら密造国を変える。アメリカ国内で密造することも難しくはない。フェンタニルなら可能だ……」

 トランプ政権の行く末すら左右するオピオイド禍。第1回【すでに“50万人”以上が犠牲に…いまアメリカを襲う“史上最悪の麻薬危機” フェンタニルが全米を席巻するまでの麻薬汚染の実態とは】では、アメリカと薬物汚染の長く険しい歴史を振り返っている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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