安倍政権事務方の責任者が明かす「トランプとのディールの必勝法」 日本が切れる二つのカードとは
【前後編の後編/前編からの続き】
かつて日本には国難を交渉力で突破したつわものがいた。「不平等条約」解消で関税自主権を奪還した小村寿太郎。戦後の主権回復を成した「サンフランシスコ講和条約」では、吉田茂の懐刀として白洲次郎が尽力した。翻って、あまりに心もとない“赤澤使節団”を待ち受けるのは、トランプ大統領の腹心たち。日本の命運を左右する交渉相手の正体とは。
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前編【「アベノミクスで1000億円儲けた“ウォール街の殺し屋”」 トランプ関税で日本を待ち受けるベッセント財務長官の正体】では、関税を巡って交渉相手となる二人の大物の素顔について紹介した。日本はつわもの相手にどのような交渉カードを持っているのか……。
今や日本人にとってもおなじみの「ディール(取引)」は、不動産王として財を成したトランプ氏が最も好む言葉とされている。
1987年に米国でベストセラーとなった『トランプ自伝』を読むと、冒頭の章で〈私は取引をするのが好きだ。それも大きければ大きいほどいい。私はこれにスリルと喜びを感じる〉と記している。目を引くのは、日本との取引についての記述だ。
〈ただ残念なのは、日本が何十年もの間、主として利己的な貿易政策でアメリカを圧迫することによって、富を蓄えてきた点だ〉
こうしたトランプ氏の偏見が、今回の対日関税における根拠不明な数字に表れているといえるだろう。
国際ジャーナリストの大野和基氏によれば、
「トランプ氏の頭の中は80年代で止まっていますが、さすがにスコット・ベッセント財務長官は進んでいますからね。日本への造詣が深いという意味では、まだ彼が交渉相手で良かったと思います」
日本が切れる「二つのカード」
いざ交渉が始まれば、日本に“必勝法”はあるのか。安倍政権下の日米貿易交渉の事務方の責任者だった、関西学院大学教授・渋谷和久氏に尋ねると、
「絶対やってはいけないことは、米国に対して “何がお望みですか”と聞くことです。そうしてしまうと、あれもこれもと無限に要求が出て生産的な話ができません。昔から米国は交渉をまとめる能力がなく、無理難題を押し付けることに悪気がない。現下のウクライナが停戦協定で米国の要求に困っていますが、こっちから対案を出さないと交渉はまとまらない。大国とはそういうものです」
対案を出す上で、日本が切れるカードは主に二つあると渋谷氏は提言する。
「一つは米国への投資を増やすこと。安倍総理がケンタッキー州のトヨタ工場に追加投資をさせるという話をしたら、トランプ氏はすごく喜びました。総額何兆ドルの投資をするという話より、米国の雇用が、どの場所でどれだけ増えるかの具体像を示さないと、トランプ氏には刺さりません」
二つ目は、米国から買えるものを探すことだそうだ。
「相互関税の根拠となった計算式は分子が米国の貿易赤字額でした。要は米国に対する日本の貿易黒字を減らせばいい。トランプ政権はエネルギーの類いを輸出したい意向があるので、LNGなどを購入するのも一案です」(同)
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