「アベノミクスで1000億円儲けた“ウォール街の殺し屋”」 トランプ関税で日本を待ち受けるベッセント財務長官の正体
日本を悩ますUSTRの無理難題
そんな子煩悩な一面もあるグリア氏の本職は、通商法を専門とする弁護士だ。
第1次トランプ政権では中国との関税交渉を担う「対中強硬派」として名をはせたが、バイデン政権で民間の法律事務所に下野。昨年のトランプ氏再選でホワイトハウスに返り咲き、通商交渉を一手に担うUSTRのトップに任命された。
再び渋谷氏に聞くと、
「日本政府は代々、USTRの無理難題に悩まされてきました。クリントン政権時代のUSTR代表であるミッキー・カンター氏が、通産大臣だった橋本龍太郎さんの喉元に竹刀を突き付けた話は有名です。私はオバマ政権下でもTPP交渉を担当しましたが、最終段階でマイケル・フロマン通商代表が各国に対して“もっと出せ”“もっと出せ”と要求しているので、甘利明大臣が“お前いい加減にしろ!”“終わんねぇじゃねぇか”と言ったほどです」
強気で引かない姿勢がUSTRの真骨頂だという。
「USTRは通商交渉のみを行う交渉屋さんです。普通、通商交渉では、日本における経産省のような役所が担当する国が多いので、政策立案までを含めた大局的な見地から判断してくれる。ところが、USTRは交渉だけが仕事なので、まったく妥協しない。取れるだけ取ってやろうと考えるわけです」(同)
ゆえに今回、責任者へ出世したグリア氏が、面倒な相手となりはしないか。
「必要ない部分まで相手から取る、という考えはない」
その点を渋谷氏に質すと、
「もともとグリア氏は、ライトハイザー氏と同じ弁護士事務所で働いていて引っ張られた人物ですから、USTRの生え抜きではありません。極めて合理的な考えの持ち主で、米国に成果のある交渉ができればいいというタイプ。必要のない部分まで相手から取ってやろうという考えは持っていません。日本側の提案がトランプ政権が目指す目標に資することを説明できれば、問題なく交渉が行えると思います」
とはいえ、日米交渉の相手はグリア氏だけではない。
ベッセント氏は、米国債の暴落を危惧して、相互関税発動の「90日間延長」を大統領に進言したとされる人物だ。
私生活ではゲイであることを公言しているが、多様性を嫌うトランプ氏から要職に起用されるほど信頼が厚い。事実、政権内で最も金融事情に明るく、巨額取引で相手を打ち負かす投資家として“ウォール街の静かな殺し屋”の異名を持っている。
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