既婚女性の心の声をすくい上げる「ドロドロ復讐モノ」も “狂気”がハンパない今期注目ドラマ2選

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 全局のドラマをひととおり観てはいるものの、最近はNHKとTBSの作品にばかり引かれがちだ。数年前はテレ東大好きだったのに。そろそろあの雑草魂を見たいと思っていたところに、安達祐実と松下由樹がニョロッと登場。テレ東が春の狂気祭りを開催しとる。

 まずは、ふがいない夫に悩む役がしっくりきている安達が主演の「夫よ、死んでくれないか」。このタイトルは心くすぐる。既婚女性の心の声をすくい上げる文言だ。夫よ、の後に「ぽっくり」「金を遺して」など、追加する人もいるだろうなぁ。

 登場する夫婦は3組。安達が演じるのはデベロッパー勤務の麻矢。夫はIT企業に勤める光博(竹財輝之助)で、夫婦間にはズレが生じている。家事をしない夫にいら立ちを積み重ねていく麻矢。会社では渾身のプロジェクトを同期の男に取られる。「出産する可能性のある既婚女性に長期プロジェクトを任せない」会社の方針に麻矢はがくぜんとする。また実家には横暴な父、我慢を重ねて怨嗟の塊と化した母、ひきこもりのきょうだいもいる様子。わやだ。

 麻矢の学生時代からの親友は二人。フリーライターの璃子(相武紗季)には束縛の激しい夫・弘毅(高橋光臣)がいる。専業主婦の友里香(磯山さやか)には口を開けばモラハラと口臭をまき散らす夫・哲也(塚本高史)がいる。要は、男を見る目がなかった三人組なのだ。

 夫が疎ましいという共通項だけでなく、三人は若かりし頃の秘密を共有している模様。不倫発覚&失踪や記憶喪失など、夫たちにもいろいろと起こり始める。妻にとって吉と出るか凶と出るか、結末が気になる。

 そう、ここ数年のテレ東はメシだけじゃなかったよ。夫婦がテーマの作品に力を入れている。のんびり旅する夫婦もいれば、スワッピングする夫婦もいた。夫を社会的に抹殺する妻もいた。夫婦という最小限のユニットをバラエティー豊かに味付けしている点を評価したい。

 もう一作。松下由樹が主演の「ディアマイベイビー」。芸能界・テレビ業界の因習やあしき搾取がやっと俎上に載せられ始めた令和に、姐さんがゴリッゴリの狂気を引っ提げて、芸能事務所の剛腕マネージャー・吉川恵子を演じるっつう。えげつなくデフォルメされてはいるが、これに近い話は現実に掃いて捨てるほどあると思う。令和に入って、事務所を去って移籍したり、独立する俳優が増えた訳も推して知るべし。そんな芸能界のいけにえとなるのは、親と疎遠の純朴な青年・森山拓人。演じるのは野村康太。

 吉川は一人の女優(これも安達祐実)を育てて、長年尽くしたが、裏切られて置いてけぼりを食らう。失意のどん底で出会ったのが森山だった。彼をスターにするべく、画策する吉川。女優志望の娘を食い散らかすテレビ局プロデューサー(阪田マサノブ)を脅迫し、ゴリ押しで森山をドラマのキャストに滑り込ませるなど、手段を選ばず。由樹姐さんの本領発揮ですよって。

 皿がもらえるヤマザキ春のパンまつりとは異なり、毒食らわば皿まで、のテレ東春の狂気祭りをご堪能あれ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年4月24日号掲載

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