「殺人クマ」の胃袋から被害者のタイツが…「秋田八幡平クマ牧場事件」 檻から脱出「ヒグマ6頭」が、2名の老女を襲った惨劇の一部始終

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従業員は3名

 秋田と岩手にまたがって広がる火山群「八幡平」の麓。木々が生い茂る一角に「八幡平クマ牧場」はある。事件のあった4月20日は朝から快晴。気温は午前10時で約7度だった。牧場の敷地内のほとんどの部分は50センチほどの根雪に覆われ、葉を落としたままの木々が林立する荒涼たる光景は、見る者に寒々しい印象を与える。

「八幡平クマ牧場」が開設されたのは1987年。事件当時、北海道ヒグマ、コディアックヒグマ、ツキノワグマの3種、計33頭が飼育されていた。野生では本州に生息するツキノワグマは体長は平均1.5メートル、体重は80~120キロ。それに比べ、日本では北海道にのみ生息するヒグマは体長約2メートル、体重は300キロを超えるものもいる。アラスカのコディアック島などに生息するコディアックヒグマはさらに大きく、体重1トンになるものもいるという。
 
「八幡平クマ牧場」の経営者は造園業も営む男性(68)。従業員は、亡くなったハナさんとシゲさんに男性従業員(69)を加えた3人のみ。20日は冬季閉鎖中だったが、4月下旬の営業再開に向け、午前8時頃から従業員3人がエサやりなどの作業をしていた。

“熊が逃げた”

 鹿角広域行政組合消防署・副署長の話。

「第一報が大館消防本部に入ったのが午前10時5分で、それが我々に転送されてきた。牧場の男性従業員がまず大館市に住む経営者に連絡し、彼が119番したのです。この時の情報は“女性が熊に噛まれているようだ”というもの。救急小隊3名が10時26分に、私を含めたポンプ小隊4名が31分に現着しています」

 牧場には、客用の入口と従業員用の入口がある。従業員用入口から牧場のほうを見た副署長の目に、信じがたい光景が飛び込んできた。檻の中にいるはずのヒグマ2頭が悠々と牧場敷地内を歩いていたのだ。熊との距離は約30メートル。

「私は急いで入口のゲートを閉めた。でも、もう一方の入口には門もなく、一度熊が逃げてしまったら四方八方どこでも行ける」(同)

 男性従業員は経営者に連絡した後、牧場から車で5分ほどの場所に住む猟友会会員・A氏(前出)の自宅を訪れている。
 
「ハナさんが“熊が逃げた”と叫んだんだ。シゲさんは何も応答ねぇ……」

 一緒に牧場に向かう車中、男性従業員はA氏に動転した様子で告げた。

「牧場に着いたら、もう消防も警察も来ていた。国道側から牧場を見下ろしたら、熊がウロウロし、人が倒れているのが目に入った。ハナさんかシゲさんかは分からないが、横たわった人間を2頭の熊が引っぱり合っていた。私は銃の準備をするため、それから一旦自宅に帰った」(A氏)

 牧場には、48メートル×20メートルの「運動場」があり、高さ約4.5メートルの塀に囲まれている(写真の「現場の図」参照)。が、事件当時、運動場の隅には雪山ができており、塀の上部まで1メートルほどしかなかった。6頭のヒグマはそこから外へと逃げ出したのだ。

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