「家電、食料品に衣類まで…」 アメリカで起きている「買いだめラッシュ」の実態 NY在住ジャーナリストが語る

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自動車大手が900人の従業員を一時解雇

 トランプ氏は4月3日の相互関税発表以前から“外国に関税を課すことで米国内に生産を戻す”と発信していました。Xを見ると、そのトランプ氏の主張を信じている共和党支持者が依然として一定数存在します。ですが、現実はそう簡単にはいかないはずです。なぜならば、根本的な問題として衣類や日用品の製造に従事するような安い労働力など、今の米国内では見当たらないからです。

 ジーンズメーカーのリーバイスは最後まで米国内で生産していたアパレル企業ですが、そのリーバイスでさえ、二十数年前にすべての生産拠点を国外に移してしまっています。相互関税を導入しても、衣類や日用品などの生産拠点が米国内に戻るとは今後も考え難いんです。

 それどころか、相互関税によって国内の生産基盤に支障が出始めています。実際すでに、ジープやクライスラーなどを擁する欧米自動車大手ステランティスが3日、米国内5カ所の工場で900人を一時解雇し、メキシコとカナダの組立工場の生産を一時停止すると発表しました。

米経済が後退局面に?

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融バブルのソフトランディングを狙っていたにもかかわらず、トランプ関税のおかげで株価は大暴落してしまいました。アメリカの代表的な株価指数、S&P500は2020年6月以来の大幅な下落率となり、4日と5日の2営業日だけで実に5兆4000億ドル(約810兆円)の時価総額が吹き飛んだ。米金融大手のJPモルガンは相互関税によって時間の経過とともに失業率が上昇し、米経済が今年リセッション(景気後退)に陥るとの予測を公表しています。

 ところで最近、共和党関係者に衝撃が走った選挙結果が出たのをご存じでしょうか。4月1日に実施された、ウィスコンシン州の最高裁判事の選挙のことです。この選挙では政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏が現地入りして、共和党の候補を支援するために、有権者に100万ドル(約1億5000万円)を贈与したり、共和党のための選挙広告を打ったりして、総額2000万ドル(約30億円)をポケットマネーから出しました。それなのに共和党は負けて、民主党系の候補が勝利した。これは共和党に警鐘を鳴らす、大事件だと受け止められました。

 トランプ氏は相互関税がもたらしている弊害について、「一時的な混乱」に過ぎないと主張していますが、有権者の支持の揺り戻しは当然起こるでしょう。共和党はトランプ関税により中間選挙で敗北し、連邦議会上下院の一方もしくは両方で過半数を割る可能性があるのです。

 前編【「トランプ氏を批判する学者はまるで理解できていない」と佐藤優氏が語る理由 「トランプ関税は大歓迎」】では、作家の佐藤優氏が「トランプ関税は大歓迎」と語る理由について報じている。

津山恵子 NY在住ジャーナリスト

週刊新潮 2025年4月17日号掲載

特集「狂気のトランプ関税 私はこう考える」より

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