「トランプ氏を批判する学者はまるで理解できていない」と佐藤優氏が語る理由 「トランプ関税は大歓迎」

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【全2回(前編/後編)の前編】

 世界中に衝撃を与えている「トランプ関税」。作家の佐藤優氏は、トランプ大統領には明確な戦略があると指摘した上で、「もろ手を挙げてトランプ関税を歓迎している」と語る。その理由とは――。

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 私はトランプ関税には二つの目的があると考えています。一つは貿易赤字の是正。これは過去の日米貿易摩擦の時と同じなので、解決のためにはアメリカの製品を日本などにもっと買わせればいいだけの話です。

 大事なのはもう一つの目的の方で、トランプ大統領は米国の産業構造の転換を目指している。戦車や弾薬だけではなく、自動車はもちろん、白物家電の冷蔵庫、洗濯機、掃除機に至るまでアメリカで全部製造しようと考えているのは間違いありません。だからこそ、トランプ氏は中国に対してのみならず、世界各国に相互関税措置を講じたわけです。

 経済学者や国際政治学者の一部からは“トランプ関税はでたらめで米国の経済を弱体化させる結果に終わる”との批判の声が上がっています。ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏などは「彼(トランプ氏)は完全に狂っている。想定よりはるかに高い関税を課しただけではなく、貿易相手国について虚偽の主張をしている」とまで述べています。しかし、クルーグマン氏のほうが、現在進行形で起きているこの事態がどういうことなのか、まるで理解できていないのではないか。

 むしろ、トランプ氏が今回、確固たる明確な戦略を持っているのは以下に述べる話からも明らかでしょう。

第2次世界大戦以前の潮流に戻る?

 英国の古典派経済学者であるアダム・スミスやデヴィッド・リカードらは、国家の介入や干渉を排する自由貿易を擁護したのですが、今から約180年前にドイツの経済学者、フリードリヒ・リストが主著『政治経済学の国民的体系』を刊行し、この自由貿易化の議論に真っ向から異議を唱えました。その考えは一言で言えば、自国の産業を育成・発展させるために競争的に優位に立つ他国には関税をかけるべし、というものでした。

 実は第2次世界大戦が終わるまで、このリストの考え方のほうが世界的な潮流だった。第2次大戦後も、EUなどは域内では相互に関税を廃止する一方、域外の諸国に対しては共通の関税を課していたわけですから、やはりリストの考え方は生きていたのです。

 1989年にベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結して以降、グローバリゼーションが肯定されるようになったのですが、それはここ30年ほどのことに過ぎません。トランプ氏は国家運営に、再びリスト的な視座を持ち込もうとしていると見るべきでしょう。

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