高齢女性の家に薬膳オタク男性が食事係として同居… “ある意味、理想形”なコミュニティーが見られるドラマ「しあわせは食べて寝て待て」レビュー

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 私はずうずうしいくらいに健康だ。風邪もほぼひかず、アレルギーもない。ヒト以外は喜んで食べるし、膝や腰は痛いが動き始めれば忘れる。原始人に近いと思う。

 なので「寒いと風邪をひく、体がだるくて常に微熱、関節が腫れたり痛んだりする」と主人公が呟くのを聞いて共感は難しい。「ああ、そりゃつらいねぇ……」と想像力を働かせるしかない。「しあわせは食べて寝て待て」の話だ。

 友人が原作漫画が大好きで、ドラマ化を喜んでいた。膠原病を抱えたヒロイン・麦巻さとこを演じるのが、細身の桜井ユキというのも実にしっくりきたそうだ。

 さとこは大手建設会社に勤めていたが、膠原病発症後は易疲労(いひろう)で休職。時短勤務で復帰したが、後輩から嫌がらせを受け、心も不調に陥って退職。兄一家と暮らす母(朝加真由美)は病気に理解がなく、大企業を退職した娘を詰(なじ)る始末。ああ、そりゃつらいねぇ……。

 今は、個人デザイン事務所で週4日のパート勤務だ。雇用主でデザイナーの唐圭一郎(福士誠治)は、さとこの病気の特性を理解してくれている。ところが家賃が値上がり、パートのさとこに月11万円は厳しい。ああ、そりゃつらいねぇ……。

 安い物件を探し、不動産屋(顔の圧が丁度いい菅原永二)に紹介されたのは古い団地の一室。NHK、ここんとこ団地モノが好きだよね。私も好き。団地が舞台というだけで心躍る。

 よさげな部屋だが、難が一つ。大家が隣に住んでいて、お節介で距離が近過ぎる。大家は御年90歳の美山鈴、演じるは加賀まりこ。

 ああ、そりゃキツイねぇ……と思ったが「さとこに必要なのは食養生」だと彼女が気付かせてくれるわけだ。鈴さんも、もともとは虚弱体質だったフシが。不調を敏感に察知してくれる人がいることの幸せがある。

 実はこの鈴さんの家には同居人がいる。食事を作るのが、薬膳オタクの羽白(はじろ)司。宮沢氷魚が演じる司は、団地内で全住人に応対可能な親切心と笑顔の持ち主のようで。そりゃいいねぇ! 高齢女性の家に優しい薬膳オタク男性が食事係として同居。ある意味、理想形。

 体も心も易疲労、働きたくてもしんどくて、頼る人もいなくて、絶望しかない独り身のさとこがたどり着いたのは、団地&薬膳&他人同士のお節介コミュニティー。食養生に目覚め、生活と人生を再建する物語のようだ。

 昭和から平成になり、人との距離は遠ければ遠いほど快適とされてきた。令和でコロナ禍を経て、距離感の見直しが始まったようにも見える。特に、家族や血縁ではない、ほどよい距離感のコミュニティーを所望する人が増えた気もする。そういう意味で団地は有効……というのはドラマの中だけ。実際には閉鎖的で、敬遠されたり排除されたりするだろうなぁと思いつつ。

 家族以外の間で、理想的な支え合いが営まれる優しい団地ライフを観るのは好き。勤め人だけでなく、フリーランスがもれなく登場するところにも親近感。私も団地に向いているのでは、と勘違いしちゃう。それこそNHKの思うツボだよ!

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年4月17日号掲載

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