「なぜ泣けるのか」が全部つながる朝ドラ「あんぱん」 “伏線と回収”で魅せる中園ミホの脚本力とは

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笑いも入れる技術

 さらに物語に早々と対立構図を早々と設け、メリハリを付けた。たとえば転校生・嵩をいじめる同級生と嵩を守るのぶ。釜次と阿部サダヲ(54)が扮する「やむおじさん」こと屋村草吉である。草吉がジャムおじさんのモデルの1人なのは誰の目にも明らかだ。

 草吉はおいしいパンが焼ける。おそらく東京・銀座の「木村屋」(ドラマでは「美村屋」)で働いていた。嵩が銀座で、一家でおいしいあんぱんを食べたことがあると振り返ったとき、草吉は顔色を変えた。1869年に創業された木村屋のあんぱんは明治天皇にも献上された名品である。

 物語が始まったばかりというのに、結太郎は亡くなり、登美子は嵩を捨てた。普通なら陰鬱な物語になるが、そうならないのは笑いがあり、そのセンスもいいから。

 第8回、江口のりこ(44)が演じる結太郎の未亡人・羽多子は、釜次に家であんぱんをつくらせてほしいと懇願する。家計の助けにするためだ。

「お義父さんお願いします。ここでパン屋をやらせてください」(羽多子)

 釜次は渋った。羽多子はなお説得した。

「あてらに出来ることはこれしかないと思うがです。結太郎さんも夢枕に……もし立ったら賛成してくれると思います」(羽多子)

「羽多子さんズルイわぁ~」(釜次)

 コントさながらのやり取りにクスリとした。

 視聴率も急上昇中。NHK、民放を問わず、優れたドラマなら広く観られる。視聴者は正当に評価する。それは昔も今も変わらない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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