企業の9割が引き上げで「初任給30万円」時代の到来…「新入社員」と「氷河期世代」との絶望的な“賃金格差”は解消できるのか

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生産性を上げていく必要性

 一方で、初任給引き上げに伴う課題として、企業の利益圧迫の問題があります。賃金を上げれば当然コストは増加します。そのため、生産性を上げていく必要があります。また、企業の業績向上のために裁量労働制などの適用を拡大したいという意向も経済界にはあるようです。

 企業側からすれば、労働時間規制を緩和してほしいという要望を持つのは当然のことです。一方で労働者側は、企業の思うようにされては困る。この対立の中で、どのようにバランスを取っていくかが課題となっています。

 特に近年は働き方改革関連法の施行により、労働時間の上限規制が設けられるなど規制が強化されています。

 ただし、労働時間の規制緩和には慎重な議論が必要です。確かに労働時間の上限規制が適用されて働けなくなっている人がいて、それが日本の経済成長を阻害しているという議論もあります。人手不足が深刻な中で、働きたいのに働けない人を放置していいのかという意見もあります。

 しかし、労働時間規制の対象外となる人を増やすことには、労働者側から懸念の声も上がっています。企業の意向に関わらず自分で裁量を決められる人であれば問題ありませんが、そうでない人もいるでしょう。会社からのプレッシャーを受けて長時間働かざるを得なくなり、しかも残業代はもらえないという状況に陥る可能性もあります。

 労働時間規制の緩和は、経済的な利益と労働者の権利保護のバランスを考慮しながら、制度設計を慎重に進めていく必要があります。

労働時間規制を緩和すべきか

 リクルートワークス研究所が実施した調査の中で「労働時間の制度や希望」をテーマに聞いたところ、「労働時間を自由に増やせるか」という質問に対し、正規雇用者の51.2%が「自由に増やせない」と回答しています。これは会社から残業を控えるよう指示されているケースなども含まれると思われます。多くの労働者が自由に働く時間を増やすのは難しい状況にあることがわかります。

 ただし、その一方で、「労働時間を増やしたいか」という希望を聞いたところ、増やしたいという人はわずか6.3%にとどまりました。

 さらに詳しく分析すると、労働時間を増やしたいと思っている人は、低収入の人に多い傾向があることがわかりました。要は「もっと稼ぎたい」人が労働時間を増やしたいと感じています。逆に、収入水準が高い人は労働時間を減らしたいと思う傾向にあります。年収1000万円以上の人でもっと働きたいという人はあまり多くはないのではないでしょうか。

 人手不足が深刻化する中で、労働時間規制を強化する方向性は果たしてよいのかという議論は今後起こってくると思われます。欧州では労働時間への規制は厳しいですが、一定の適用除外(デロゲーション)も認められています。日本でもそうした形を目指すべきだという意見は出てくるでしょう。

 一企業にとって重要なのは、人材の採用と企業への定着との兼ね合いです。労働時間を延ばすことで短期的なアウトプットは高まるかもしれませんが、長時間労働によって離職率が高まってしまっては本末転倒です。企業としては、これらのバランスを慎重に見極めながら判断していく必要があるでしょう。

デイリー新潮編集部

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