「頭から離れなかった“妙な歌”の正体は…」 小説家・須藤アンナが父から聞かされた“衝撃の事実”

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胎児の段階で“受動喫煙”

 工場の煙、その正体はギタリスト“王様”による、洋楽の直訳ソングだった。本当に煙のような真相に、純真な小学生は開いた口がふさがらなかった。歌詞カードを読んだところ、長年「工場」だと思っていたのが、正しくは「湖上」であると判明し、私の中で築かれていたすすまみれの工場は見る間に瓦解していった。聞き間違いじゃんか……。それにしたって元の歌詞も大概である。散文を通り越してただの日記なのだ、イアン・ギランの。

 ところで私は一体いつ、この曲を聴いたのか。ここでまた、父によって衝撃の真実が明かされる。私がいつもすぐ寝てしまうだけで、ドライブ中によく流していると。そして最もよく聴いていたのは、母が妊娠していた頃だというのだ。なんと胎児の段階で、私は湖上の煙を受動喫煙させられていたのだ。一度肺のレントゲンを撮ってもらった方がいい。きっと煙の吸いすぎで真っ黒になっている。

 子どもの趣味趣向は親に大きく影響される。故に子どもが小学校でクラスメートと共通の話題で盛り上がれるかは親次第である。私は学校で音楽の話ができた記憶がない。そりゃそうだ。睡眠学習と言うとお得感があるが、やはり受動喫煙以外の何物でもない。

須藤アンナ
2001年東京生まれ。2024年「グッナイ・ナタリー・クローバー」で第37回小説すばる新人賞を受賞。同作は25年2月に集英社より刊行された。

デイリー新潮編集部

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