医学部予備校の代表が「中学受験に塾は必要ない」と断じる理由 医学部受験とも共通する「手を出してはいけない問題」とは
医学部受験にも共通する「難問制覇」の呪い
では、なぜ中学受験でも、医学部受験でも「難しい問題」を解かせようとするのだろうか。
「これは塾や予備校の経営戦略でしかありません」
と高梨氏は断言する。
「塾という場所は、集団塾であれ、個別指導塾であれ、『問題を解説すること』が主な役割となります。しかし、基礎的な内容は学校で習いますし、市販の教科書ワークにも丁寧にやり方や覚えるポイントが書かれているため、塾に高いお金を払って教えてもらう必要はありません。算数なら解法を覚えて演習をすれば力が付くし、理科・社会なら暗記すればいいわけですから、家庭でもできますよね。そこで、塾側はあえて『中学受験にはこんな難しい問題が出ます』『近年の思考力や記述力を求める問題が解けるようになるのは、こんな視点を持たなければなりません』などもっともらしいことを言って、教える価値のありそうな問題、すなわち『難しい問題』を扱うのです。つまり、塾が経営を成り立たせるための戦略に過ぎないのです。
ところが、受け取り側はそうは思いません。こうした情報が世に出回ると、『中学受験をさせるとなると難しい問題が解けるようにならなければいけない』→『そのためには、それを教えてくれる塾に通わなければいけない』→『塾の授業は難しいし、宿題も多いから、親である自分がサポートを頑張らなければいけない』→『わが子が落ちこぼれてしまわないように、親である自分が厳しく管理しなければいけない』という思考回路になってしまいます。そして、この思考にハマってしまった瞬間、過酷なレースが始まってしまうのです」
昨今、中学受験で親が過熱するあまりに、「なんでこんな問題が解けないの? こんな成績ではどこにも受からないよ」と、子どもに心ない言葉を浴びせたり、点数の悪かった模試をビリビリに破いたり、ひどいときには子どもに手を出したりといった教育虐待が問題視されている。実は、こうしたケースは医学部受験でも多い、と高梨氏は言う。
「医学部受験生の中には、小さい頃から医師になるためにずっと勉強を頑張ってきた子がたくさんいます。なかには何年も浪人して医学部に合格する人もめずらしくなく、その中には自分に自信が持てず苦しんでいる人が多いと感じます。そういう子に話を聞くと、『自分はこれまで親に一度も褒められたことがない』『いつもできないことばかり指摘されていた』など、親御さんの言葉がけが原因で、自分に自信が持てなくなってしまっている子がとても多いのです。そして、その最初のきっかけになりやすいのが、中学受験なのです」
高梨氏は今年3月、中学受験生の親向けに『合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ』(日本能率協会マネジメントセンター)という中学受験に関する本を上梓した。医学部予備校の塾長がなぜ中学受験本を? と不思議がられるそうだが、出版した理由は、「こうした医学部受験生の苦悩の根っこにある受験に関する『間違った思い込み』を見直して欲しいと思ったからだ」と語る。
今の中学受験、ひいては医学部受験を過酷なものにしている根本が、この「難しい問題が解けるようにならなければいけない」という思い込みなのだと言う。
後編「『先生の解説を聞く』だけでは成績は伸びない…中学受験を勝ち抜くために必要な“たった2つの方法”」では、中学受験に本当に必要な「暗記と習得」について、実践例を含めて高梨氏が解説している。
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