マー君に“魔改造”を施す名伯楽の素顔 岩隈、藤川を育て菅野を復活させた凄腕
ソフトバンク時代、大竹耕太郎に逆療法「体を開いて投げてみろ」
翌1998年から近鉄のコーチを務め、大塚の他、日米通算170勝の岩隈久志、2002年に17勝を挙げて最多勝に輝いたジェレミー・パウエルらを育て上げた。その後、阪神に招かれて藤川球児(現監督)、能見篤史氏の育成に携わり、当初リリーバーとして振るわなかったランディ・メッセンジャーを先発に転向させ、本領を発揮させた。ソフトバンクでも、早大から育成ドラフト4位という低い評価で入団してきた大竹耕太郎投手(現阪神)を、1軍で活躍できる左腕に育てた。
「伸び悩んでいた大竹に対し、当時2軍コーチだった久保さんが、腕が横振りになって、ボールが打者から見やすくなっていることを指摘。軸を縦にして、できるだけ前でリリースするように修正しました。久保さんの理論は、教える相手が誰であれ、基本的に変わらない。ただ、投手一人ひとりの個性が違う中で、どう表現すれば相手に響くかを研究し、試行錯誤しながらキャリアを積み重ねてきました。大竹には『体を開いて、上体を突っ込んで投げてみろ』と指導したそうです。体が開くことも、上半身が突っ込むことも、投手にとっては禁物とされていますから、本人の意識を変えさせるための“逆療法”ですよね。大竹は現役ドラフトで2023年に阪神へ移籍し、以降2年連続2桁勝利を挙げて飛躍しましたが、その基盤が久保コーチの指導にあったことは間違いない。大竹本人も感謝していますよ」(ソフトバンク球団関係者)
かつて日本球界には、日本ハムのコーチ時代にダルビッシュ有(パドレス)、楽天でも田中を育てた佐藤義則氏ら、名伯楽と呼ばれる名コーチが何人かいた。しかし最近は、トラックマンなど計測機器が普及。球速のみならず、回転数、回転軸など詳細なデータを1球1球取りながら科学的に練習することが当たり前になった。それとともに、経験則に基づいた“名コーチ”のアドバイスは、ありがたがられなくなりつつある。
久保コーチは“最後の名伯楽”なのか
「最近の若い選手は、動画投稿サイトで、カリスマ指導者の理論を勉強したり、一流選手のフォームを研究したりしている。自分のチームの指導者に『その指導の根拠は何ですか?』、『それでうまくいかなかったら、誰が責任を取ってくれるのですか』と反発する選手もいます。田中もこうして手取り足取り教わるのは、楽天の若手時代に佐藤氏に教わって以来でしょう。藁にも縋る心境なのだと思います。ひょっとすると、時代の流れからみて、久保さんは“最後の名伯楽”と呼ばれる存在になるのかもしれませんね」(パ・リーグ球団関係者)
田中は名球会資格を得られる日米通算200勝まで、あと3勝。阿部監督はそこにとどまらず、「2桁勝ってほしい」と背中を押している。久保コーチによる魔改造の行方に、球界全体が注目している。
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